最新記事

ノルウェー

「77人殺した囚人でも独房は人権侵害」という判断は甘すぎる?

生活用、学習用、トレーニング用の3部屋を与えられていても、ヨーロッパの基準では「非人間的で屈辱的」になる

2016年4月22日(金)18時38分
アレクサンダー・ナザリアン

反省もなし? 処遇改善を訴える裁判でナチス式の敬礼を見せるブレイビク Lisa Aserud/NTB Scanpix-REUTERS

 ヨーロッパから「正しい」ことを指摘されるのが、アメリカ人は嫌いだ。累進課税、高速鉄道、サッカー、低アルコールビール――。

 しかし今回のノルウェーの判断はやはり「正しい」。オスロの地方裁判所は、連続テロ事件の大量殺人犯アンネシュ・ブレイビクを隔離して収監するのは人権侵害にあたるという判断を示した。

 殺人犯を「モンスター」と呼ぶのは陳腐だが、ブレイビクを表現するのにこれ以上適当な言葉は思い当たらない。2011年のテロ事件で、多くのティーンエイジャーを含む77人を殺害した男だ。21年の刑期を言い渡され、隔離して収監されていた。しかしその実態は「日の光も差さない独房」というイメージからは程遠い。

【参考記事】ノルウェー連続テロ犯裁判の奇妙な展開

 ブレイビクが収監されているシーエン刑務所は、写真で見ると、まるで学生寮のくじ引きで悪い部屋を引き当てた新入生の部屋のようにしか見えない。アメリカの悪名高いアンゴラ刑務所やサン・クエンティン刑務所のような「穴倉」の独房とは程遠い。英紙ガーディアンの報道によれば、「ブレイビクは生活用、学習用、トレーニング用の3つの部屋を使い、インターネットに繋がっていないテレビとテレビゲーム機を用意され、自分で料理や洗濯ができる設備も整っていた」。

 しかしオスロ地裁は判決で、ブレイビクの処遇は、ヨーロッパ人権条約に違反する「非人間的で屈辱的な処遇、処罰」だと判断した。「これはテロリストや殺人者の取り扱いなどすべてに適用される」と、判決は述べている。

 ブレイビクは現在、法廷費用の支払期限を目前に控えている。今後の収監状況がどう変化するかは、直ちには明確になっていない。

リベラリズムの行き過ぎで狂ったヨーロッパ

 アメリカの「法と秩序」の専門家から言わせれば、今回の判決は、リベラリズムがヨーロッパの集合的「健全性」を蝕んでいる新たな証左だろう。アメリカでは、「犯罪者に甘い」というのは保守派がリベラル派を批判する政治キャンペーンの常套句だ。

【参考記事】腐り始めた「人権大国」フランスの魂

 今回の判決に対する怒りは、ある程度理解できる。77人もの命を奪っておきながら、本人は自分の生活に関して細かな条件改善を求めているからだ。

 しかし、民主主義下の司法は、単純な「報復の衝動」では動かない。ノルウェーの受刑者は、償うべき罪を考慮すれば、余りにも「快適」に過ごしているかもしれない。しかし、その内容はどうであれ、ブレイビクは法律に基づいて自分の収監に関する状況改善を求めた。ノルウェーはその訴えに対して、感情を差し挟まない法的な範疇から、法治国家として為すべき対応をした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

イスラエルのガザ市攻撃「居住できなくする目的」、国

ワールド

米英、100億ドル超の経済協定発表へ トランプ氏訪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中