最新記事

インタビュー

【再録】タランティーノvs.本誌「辛口」映画担当の舌戦

日本の時代劇などへのオマージュに満ちた『キル・ビル Vol. 1』の公開時、本誌の映画担当記者がぶつけた率直な意見にタランティーノは……

2016年3月29日(火)16時20分

鬼才、吠える 94年の『パルプ・フィクション』や97年の『ジャッキー・ブラウン』で高く評価されたクエンティン・タランティーノは、お得意の暴力描写とマニアックな映画への愛に満ちた『キル・ビル Vol. 1』を発表。辛口で知られたデービッド・アンセンに対して、「ご説ごもっとも」「はい、はい。そうですかい」「そんなことはまったくない」などと反撃した(2007年撮影) Eric Gaillard-REUTERS


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。

[インタビューの初出:2003年10月22日号]

 夫やおなかの子を殺された花嫁のザ・ブライド(ユマ・サーマン)が、たった一人で復讐に乗り出す――お得意の暴力描写とマニアックな映画(とくに日本の時代劇)へのオマージュに満ちた『キル・ビル』は、クエンティン・タランティーノの久々の監督作品だった。2部作品となった『キル・ビル』の第1部公開時に、本誌映画担当デービッド・アンセンが率直な意見をぶつけた。

◇ ◇ ◇

――では、まず映画の冒頭から。オープニングで「クエンティン・タランティーノ監督第4作」という文字が映し出される。こういうことは過去に例がないのでは?

 だろうね。

――あれは笑えたけど、心配にもなった。監督が自分を神格化しているような感じがしてしまう。

(笑いながら)そうかもね。

<参考記事>【再録】J・K・ローリング「ハリー・ポッター」を本音で語る

――でも、映画そのものはとてもよかった。いろいろな映画のスタイルを取り入れている。

(撮影監督の)ボブ・リチャードソンには、「10分ごとに別々の映画みたいにしてくれ」と言っておいた。ある場面は往年のマカロニウエスタン風、別の場面は『座頭市』のような時代劇風、また別の場面はカンフー映画風、という具合にしたかったんだ。

 映画に統一感をもたせるために一つのスタイルで貫くという必要性は感じなかった。

――「おいしいところ取り」をねらったということ?

 そう、そう、そうなんだ。それは、僕の映画作りの哲学と言ってもいい。くだらないクズは切り捨てて、いいところだけ拾えばいい。何百万回も見せられたようなゴミはもういらない。

――といっても、その「いいところ」も、見覚えのあるものの再利用であることに変わりはない。

 はい、はい、おっしゃるとおりです。でも、リサイクルするときにひねりを加えている。僕の視点で撮る以上、必然的に他に二つとないものになる。

――暴力表現に話題を移そう。私はこの映画の暴力描写を不快に感じていない。様式美が追求されているからだ。とはいえ、作品の中では大量の血が飛び散る。吹き出す血潮がモチーフと言ってもいい。

 日本映画の伝統なんだ。日本人は、園芸用のホースみたいな太い血管をもってるんだ(笑)。

――いちばんすさまじいと思ったのは、病院の場面。見ていて、思わず座席から跳び上がりそうになった。意識を取り戻したザ・ブライドが、それまで看護師が男たちから金を取って植物状態の彼女とセックスをさせていたと知り、看護師の頭を繰り返し鉄の扉にガンガン打ちつける。

 このほうが、人の腕を切り落とすよりバイオレントだからね。現実味があるぶん怖い。

 いつも言っていることだけど、映画の中で誰かの首が切り落とされても、僕はぞっとしない。紙の端で指先を切って血が出るシーンのほうがよっぽど怖い。

――この病院の暴力シーンは『パルプ・フィクション』でサディストが登場人物をいたぶる場面を連想させる。

 確か、あなたはあの場面が気に食わないと言っていたね。「本当の悪を描こうとしたこの場面だけは、薄っぺらで月並みな描写になってしまっている」というような文章で酷評していた。

――私よりよく覚えている。

(笑いながら)ああ、そういうタチなもんでね。

<参考記事>【再録】マイケル・ジョーダンの思春期、ビジネス、音楽趣味......

――アクションシーンの話をしよう。この作品には、いくつか素晴らしいアクションシーンがある。終盤で、ユマ・サーマンが片っ端から敵をなぎ倒していく。この「青葉屋」の場面の最大の見せ場は、女子高校生用心棒のGOGO夕張(栗山千明)との対決だと思う。

 ご説ごもっとも。僕もそう思うよ(笑)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪小売売上高、5月は前月比0.2%増と低調 追加利

ビジネス

午前の日経平均は続落、トランプ関税警戒で大型株に売

ワールド

ドバイ、渋滞解消に「空飛ぶタクシー」 米ジョビーが

ワールド

インドネシア輸出、5月は関税期限控え急増 インフレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中