最新記事

インタビュー

【再録】J・K・ローリング「ハリー・ポッター」を本音で語る

取材嫌いだった超売れっ子作家を、シリーズ第4作が刊行され、第1作の映画の撮影開始前だった2000年夏にインタビューした貴重な記録

2016年3月28日(月)17時35分

「ファンタジー小説はあまり好きじゃない」 J・K・ローリングは失業中のシングルマザーだったが、97年に著した『ハリー・ポッターと賢者の石』が大ヒット、その後シリーズは世界的ベストセラーになった。ニューズウィークは2000年、シリーズ第4作の刊行に合わせて抜粋の掲載と、ローリングの独占インタビューを組み合せた特集を組んだ(2011年撮影) Suzanne Plunkett-REUTERS


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。

※このインタビューを行った記者の回顧録はこちら:【再録】J・K・ローリングはシャイで気さくでセクシーだった

[インタビューの初出:2000年8月2日号]

 この冬、日本中の子供たちを楽しませた映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』。シリーズ第4作となるその原作本がイギリスで発売されたのは、00年夏だった。本誌のマルコム・ジョーンズがそのとき、あまり人前に出たがらない著者、J・K・ローリングをインタビューした(記者の回顧録はこちら)。

 この7年前には失業中のシングルマザーだった彼女は、すでに米フォーブス誌の選ぶ「有名人トップ100」の25位にランクインしていた。この年の秋、ワーナー・ブラザースが製作する第1作の映画の撮影が始まった。

◇ ◇ ◇

――ブームは峠を越した?

 さあ。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(第3作)がピークだと思ったけれど、そうじゃなかった。時期が来れば静まるでしょう。映画が沈静化の助けになるとは思えないけれど。

――映画の脚本は完成した?

 ええ、9割方。まだ手直ししてるけど。

――映画についての発言権はどれくらいある?

 発言権という感じではないわね。意見を求められているのは確かだけど、指図する立場ではない。信頼できる相手だからこそ映画化権を売ったのだし、今のところ信頼は裏切られていない。

 キャストは全員イギリス人で考えていて、すべて順調。登場人物に対する思い入れの強さは私が一番ね。映画がうまくいかなければ、傷つくのは誰よりも私だから。

――キャストは決まった?

 まだオファーの段階。ハリー役が難航している。スカーレット・オハラの役を、子供版ビビアン・リーを探すようなものよ。

「会えばひと目でピンと来る」って思ってたんだけど、ロンドンでもエディンバラでも、歩いていると、ついキョロキョロしちゃう。運命的な出会いがあったら抱きついてしまうかも。「君、お芝居できる? ちょっと来て!」って。

――今のところ、商品化されたキャラクターグッズは一つもないが、その状況は変わりそうだ。

(うんざりした様子で)まったくねえ。とにかくワーナーは、ものすごい量の情報を送りつけてくる。何度も会議にも呼ばれたし。

 子供たちには、企業ではなく、私の望みどおりのグッズを与えてやりたい。(グッズの氾濫を)心配する人たちには、こう言ってあげたい。「どうか私を信じて。私はあなたたちの味方だから」

――最初に想定していた読者は?

 私自身。どうしたら子供たちに気に入ってもらえるか、なんて考えたことは一度もない。最初にアイデアがひらめいたときは、そりゃあ興奮したわ。これは楽しくなるぞってね。

 実をいうと、ファンタジー小説はあまり好きじゃない。大して読んでないし。『指輪物語』は読んだけど。14歳だったかしら。

 ファンタジーを書いていると意識したのは、執筆を始めてかなりたってから。そういうことに鈍いのよ。書くのに夢中だったし。3分の2まで書き終えたところで、ハッとしたの。あら、ユニコーンが出てくる。私、ファンタジーを書いてるんだ、って!

――読者からアイデアをもらうことは?

 ない。幼い読者はとても気前がよくて、私に手紙を書いては自作のおかしな言葉を教えてくれる。「使えますか?」って。私の返事は「いいえ。あなたの言葉なんだから、あなたが使いなさい」。

――ファンレターには自分で返事を書くのか。

(しぶしぶ)まあね。こんなことインタビューで打ち明けていいのかどうかわからないけど、個人的に目を通す手紙とそうでない手紙を分けているの。読んだ手紙には、手書きで返事を書く。

 ダンブルドア博士(ホグワーツ魔法魔術学校の校長)にあてて、真剣に入学させてくれと訴えてくる子もいる。悲しい手紙も多い。本当の話だと思いたい一心で、いつのまにか実話だと信じてしまった子もいる。そういう手紙には、ちゃんと返事をあげないと。

――6歳の娘さんには『ハリー・ポッター』を読んであげた?

 言葉の面では、賢い子なら6歳でも問題ない。でも読み進めていくうちに物語が暗い方向へ向かうから、子供は怖い思いをするかもしれない。だから娘には「7歳になったらね」と待たせていたの。

 だけど学校に上がると、周囲がほうっておかなかった。年かさの子供たちにクィディッチがどうのこうのとまくしたてられても、娘はちんぷんかんぷん。仲間はずれはかわいそうだから、一緒に読むことにしたわ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中