最新記事

米大統領選

トランプ外交のアナクロなアジア観

2016年3月22日(火)16時00分
アンキット・パンダ

 では、現在の考えは? ロギンが複数の陣営顧問の話として語っているところによると、トランプは大統領になった場合、日米安保条約の再交渉に動くつもりでいるらしい。

 トランプの日本像は80年代後半、あるいは90年代初期から一度もアップデートされていないのではないか。14年にはTPP(環太平洋経済連携協定)に絡んで、アメリカは「日本が米国内で大量の車を無関税で売ること」を許しているのに「日本と貿易協定を結べない」と発言した。トランプの頭の中では、日本の圧倒的な経済的成功が今も続いているのだろう。

 韓国との同盟関係についても同様の考えのようだ。14年にツイッター上で「韓国は多額の対米貿易黒字を記録している。あの国を守るためにカネを出しているのは私たちだ」と発言。その前年には、「いつまで韓国をタダで北朝鮮から守ってやるんだ?」とYouTubeで公開した動画で訴えた。

 ちなみに、韓国はアメリカとの同盟体制を維持するためそれなりの金額を負担している。だがもちろん、トランプにとってそんな事実はどうでもいい話なのだろう。

中国と日本、両方は嫌えない

 既存の同盟への懐疑的姿勢が本物であり、アメリカの国益についてトランプが確かな理念を抱いているなら、「トランプのアメリカ」がとる態度は目に見えている。東アジア地域で戦後以来のリベラルな秩序を維持するというテーマは、ほとんど見向きもされなくなるはずだ。

【参考記事】ドナルド・トランプ「株安は中国のせいだ」

 米大統領選の候補者は、それぞれ外交分野で各種の持論を唱えている。だが真に問われるべきは東アジア諸国との同盟の在り方、とりわけリバランス政策の促進の是非だ。韓国軍への作戦統制権移管や日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直しが議論されるなか、無視できない問題になっている。

 だが日韓には、地政学上の危機に対する軍事的備えがあるのか? 東アジアでの同盟関係を拡大し、パートナー国から成るネットワークをつくるため、アメリカはどうすべきか? オバマ政権が取り組んできたこれらの課題は、次の政権の課題でもある。

 トランプがいずれ、東アジアの同盟国の価値に気付く可能性はある。彼が盛んに批判する中国を牽制するには、同盟国の協力が必要なのだから。

From thediplomat.com

[2016年3月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネトフリ合

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中