最新記事

東欧

ポーランドの「プーチン化」に怯えるEU

2016年2月26日(金)20時34分
アシシュ・クマール・セン(アトランティック・カウンシル)

ポーランドとドイツの亀裂

 ポーランド政府のほうは、EUからの圧力に苛立ちを覚えている。内政干渉と見なしているのだ。うしたいがみ合いの最大の犠牲者はおそらく、対独関係だろう。

 4年前、ポーランドのシコルスキ外相はドイツを「不可欠の国」と呼んだ。こうした好意的な姿勢はこれまで、ドイツのポーランドに対する不満を和らげるのに役立ってきた。

 ドイツの政治家で欧州議会議員のマルティン・シュルツはポーランドの変わりようを「欧州政治における危険な『プーチン化現象』」だと言う。

【参考記事】プーチンが築く「暴君の劇場」

 ドイツがポーランドに指図をしているという反感は、第2次大戦中の両国の歴史と重なって、さらにエスカレートする。右傾化したポーランドのメディアは、ドイツ政府を非難する際にしばしば、ナチスを引き合いに出してきた。ポーランドの人気雑誌『Wprost』の最近の号では、ナチスの制服を着たドイツ首相アンゲラ・メルケルが表紙を飾っている。

【参考記事】ポーランド誌表紙にウェブ騒然、「欧州をレイプするイスラム」

ポーランドは右傾化しているのか?

 ポーランドで共産主義が崩壊してから20年あまりが経った。ポーランド政府の動きは、一部のアナリストが考えているように、右傾化、あるいはソ連時代への回帰を示すものなのだろうか?

「PiS政権がやっていることは、ポーランドが共産主義国家だったときと同じ全体主義を目指しているように見える」と、コボスコは言う。「メディアや司法制度を政府が支配し、人々を愛国主義へと煽動する。これらは旧ソ連時代の政治の要素だった」

 ポーランドがどこまで右傾化するのはわからない。PiSは、カトリック教会に深く根付いたEU懐疑派の保守政党だ。一方で、社会保障の拡大と、労働組合との連携を探るPiSの経済プログラムは左派的な政策に見えると、コボスコは指摘する。

「欧州全体で今後愛国主義、ポピュリズム、排外主義が勢いづいていくようだと、EUにおけるポーランドと似た者同士のハンガリーの発言力はますます強くなるだろう」と、コボスコは言う。

 明らかなことは、ポーランドの取り扱いは非常に慎重でなければならないということだ。

The article first appeared on the Atlantic Council site.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林官房長官が政策発表、1%程度の実質賃金上昇定着な

ビジネス

アングル:FRB「完全なギアチェンジ」と市場は見な

ビジネス

野村、年内あと2回の米利下げ予想 FOMC受け10

ビジネス

GLP-1薬で米国の死亡率最大6.4%低下も=スイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中