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僕らの地球を救え!子供たちの公民権訴訟

2015年12月14日(月)16時00分
エリック・ボウルス

 3団体は以前から温暖化対策法案に声高に反対してきた。今回は、気候変動による損害はほとんどが「予測」にすぎないために、子供たちには訴訟を起こす資格がないと主張するだろう。仮に子供たちに損害が及んだとしても、気候変動問題はそもそも議会に委ねるべきだ、というわけだ。

世代間の不公正をなくせ

 トラストの主任弁護士ジュリア・オルソンによれば、エクソンモービルやコーク・インダストリーズなど大手エネルギー企業は、化石燃料の使用削減につながるなら憲法の定める生存権を子供に与えるべきではない、と主張させろと裁判所に求めたという。「こちらにとっては朗報だ」と、オルソンは言う。「彼らが今回の訴訟を深刻に受け止めている証拠だから」

 ルイス・アンド・クラーク大学法科大学院(オレゴン州)のマイケル・ブラム教授も同じ意見だ。「皮肉な話だ。政府は石炭に『宣戦布告』し、カナダとメキシコ湾岸を結ぶパイプライン計画を最近却下したことで、化石燃料業界からたたかれている。それが今回はその化石燃料業界と足並みをそろえているのだから」

 ブラムによれば注目の訴訟に業界団体が介入することは珍しくない。被告である政府が必ずしも業界に有利な陳述をするとは限らないからだ。

 今回の訴訟の目的は、2100年までに大気中のCO2濃度を350ppm(ppmは100万分の1を意味する単位)に戻すための包括的で科学的根拠に基づく法律を制定すること。そこで子供たちは元NASA(米航空宇宙局)の気候学者ジェームズ・ハンセンの協力を仰いだ。ハンセンは原告の1人である孫娘ソフィーのために長く熱烈な「証言」をしたためた。

 トラストが手掛けた訴訟はこれまで、政府には本来、世代を超えた受託者として管轄下の天然資源を保護する義務がある、という不明瞭な法的概念に的を絞ったものが多かった。今回は真っ向から合憲性を問い、気候変動に関して世代間の不公正をなくすことを目指している。

「成功すれば先駆的な訴訟になる」とブラム。公立学校での人種隔離政策や同性婚を認めない州法に対する違憲判決に並ぶ「画期的変化を目指しており、成功するかもしれない」という。

 今年6月、オランダの裁判所は世界で初めて、政府にCO2排出削減の法的義務があるとの判決を下した。アメリカの憲法には明確な環境保護規定はないものの、修正5条と14条の適正手続条項、および(多くの公民権訴訟の根拠となっている)14条の平等保護条項によれば、気候変動が子供と未来の世代に及ぼす損害に政府は特別な注意を払う義務がある。

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