最新記事

安全保障

「アジアはアジアで守る」中国・脱アメリカ宣言の思惑

地域安全保障の主導権をアメリカから取り戻すという名目でアジアでの覇権を狙う中国の危険な構想

2014年12月19日(金)12時16分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケンナ大学教授)

盟主を自任 アジアでの影響力を強める姿勢を打ち出し始めた習近平 Greg Bowker-Pool-Reuters

 外交上の言辞と公式の政策は区別がつきにくい。中国は特に、政府の公の発言と行動が一致しないことも珍しくない。中国が提唱する「アジア人のためのアジア」という新しいスローガンは国内向けの国家主義的なアピールにすぎないのか、それとも本気で外交政策を転換するつもりなのだろうか。

 5月に上海で開催されたアジア信頼醸成措置会議(CICA)の首脳会議で習近平(シー・チンピン)国家主席は、「アジアの問題はアジアの人々が対処し、アジアの安全はアジアの人々が守るべきだ」と演説。アジアには協力して地域の平和と安全を構築する「能力と知恵」があると語った。

 習はさらに、アメリカが独占する現在のアジアの安全保障体制は、冷戦時代の構造に縛られていると暗に批判した。安全保障の枠組みを根本から見直し、アメリカの関与を大幅に減らそうという思いが見て取れる。

 もちろん、国内や地域の問題で干渉を受けたくないのは、どこの国も同じだ。しかし習の演説は、アジア太平洋地域におけるアメリカのプレゼンスに対して曖昧な態度を取り続けてきた中国が、方針を大きく転換するという意思表示でもあった。

欧米主導への対抗軸を

 中国の指導者は、アメリカの存在がロシアを牽制し、日本の再軍備を阻止していることを理解してきた。さらに、アメリカ主導の地域安全保障に対抗できる力が、自分たちにないことも認識していた。

 だが、こうした状況が変わりつつあるようだ。中国の方針転換として最も説得力がある例は、経済の分野で見られる。その代表が、「アジアインフラ投資銀行」と、中央アジアの新経済圏を想定した400億㌦の「シルクロード基金」を創設する計画で、欧米主導の国際機関に対する明らかな挑戦状だ。

 ただし、安全保障の分野はあまり前進していない。確かに中国は、台湾海峡や南シナ海にアメリカの介入を阻止するだけの軍事力を持つようになった。ロシアと中央アジア諸国との連携も深めている。しかし、そうした前進も、領有権問題における中国の攻撃的な姿勢のせいで帳消しになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中