最新記事

米外交

アメリカを欺くパキスタンの二枚舌

アフガニスタン再建の障壁はアメリカの目をかすめてタリバンを支援し続けるパキスタンだ

2011年11月2日(水)14時31分
ザルメー・カリルザド(元駐アフガニスタン米大使)

複雑な関係 北部パンジャブ州の州都ラホールでの反米デモで星条旗を焼くパキスタン人(今年2月) Mohsin Raza-Reuters

 アフガニスタンでの軍事作戦を開始してから10年、アメリカは今、重大な岐路に立っている。

 成果が上がっているのは確かだ。アフガニスタンにおける国際テロ組織アルカイダの拠点は破壊され、民主的な政権が国際社会と協力して治安や経済、人権の問題に取り組んでいる。

 それでも、反政府武装勢力タリバンに対する勝利の日はまだ遠い。タリバンは抵抗を続け、アメリカが挙げてきた成果を台無しにしようとしている。

 米軍による拠点を狙った攻撃に対し、タリバンはアフガニスタン高官らの暗殺で応じている。先週は、タリバンとの和解を目指す高等和平評議会の議長を務めるブルハヌディン・ラバニ元大統領が、自爆テロの犠牲になった。

 反政府勢力は5年ほど前から勢いを増しているが、その責任の一端はアメリカとアフガニスタン政府にある。民間人犠牲者の増加や国家再建の遅れ、政府官僚の腐敗は国民を幻滅させた。だがより重要な問題は、パキスタンが国境越しに反政府勢力を支援していることだ。

 オバマ政権は当初から、アフガニスタン再建にはパキスタン政府への対処が重要であることを認識し、パキスタンには強硬な姿勢を取ってきた。

 アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンの暗殺のような特殊作戦だけでなく、無人航空機による攻撃を実施。パキスタンで主要テロリストを殺害したり、反政府勢力の隠れ家を破壊してきた。

 それでもパキスタン軍部・情報機関とアフガニスタンの反政府勢力とのつながりを断つことには成功していない。

 パキスタン政府の真意が分からないことも事態を複雑にしている。パキスタン当局はアメリカとアフガニスタンとの当局者協議で反政府勢力とのつながりを否定したが、誰もそんなことは信じていない。

 マイク・マレン米統合参謀本部議長は先日、9月13日にアフガニスタンで起きた反政府勢力による米大使館攻撃にパキスタンの情報機関が関与していたと語った。

目標は「パキスタン帝国」

 パキスタン政府自体が内部分裂している可能性もある。

 より穏健な一派は、タリバン支援によってアフガニスタンに友好的な政権を樹立し、インドににらみを利かせたいと考えている。一方、中央アジアに「パキスタン帝国」を築くことを目指す強硬派も存在するのかもしれない。

 パキスタンがタリバンを支援し続ければ、アメリカは大きな戦略的打撃を受けかねない。アメリカは今すぐにでも、パキスタンの態度を変えさせる必要がある。

 それには抜け目のない外交が必要だ。タリバンとの和平交渉にパキスタンを関与させるべきで、除外されればパキスタンは合意成立を妨げるような行動を取りかねない。

 タリバンが和平交渉を拒んだ場合、パキスタンは彼らが領内に構える隠れ家を攻撃する必要がある。アメリカから巨額の援助を供与されていることを考えれば当然だろう。

 一方、パキスタンが協力を拒むなら、アメリカはパキスタンの軍部・情報機関への援助を打ち切り、パキスタン領内に潜むタリバンらに対する攻撃を増やすべきだ。多くの国を巻き込んでパキスタン政府に圧力をかける必要もある。

 米軍が撤退し始めても、アフガニスタン情勢へのアメリカの大きな影響力が薄れたわけではない。10年にわたる努力を無駄にしてはいけない。アフガニスタン再建を成功させるために、パキスタンの協力を引き出すべく全力を注ぐべきだ。

[2011年10月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中