最新記事

震災

プルトニウムはどこまで危険か

2011年3月31日(木)16時24分
ジョシュア・キーティング

水道水に混じっても大半は沈殿する

 ただし、プルトニウムの危険は往々にして誇張されすぎている。米ローレンス・リバモア国立研究所の1995年の報告書によれば、青酸カリなどのシアン化合物は約0・1グラム摂取するだけで即死するのに対し、プルトニウムの致死量はおよそ0.5グラムだ。今回は大気中への拡散は確認されていないが、仮にプルトニウムが大気中に飛び散った場合でも、1カ月後に肺水腫などで死亡するには20ミリグラムも吸い込む必要がある。

 今後、プルトニウムの吸い込みが懸念材料となる恐れがないわけではないが、その可能性は低い。仮に0・0001ミリグラムのプルトニウムを吸い込むと、癌の死亡率は1000人中200人から201・2人に増える。とはいえ、福島原発で現時点で検出されているプルトニウムの量から判断する限り、そんなごく微量のプルトニウムでさえ吸い込む可能性は低い。

 プルトニウムは重い元素で、水に溶けにくいため、飲み水についても心配はいらない。貯水池にプルトニウム10オンス(約300CC)が混じっても、水に溶け込むのはわずか10万分の1の約3ミリグラムで、残りは沈殿する。その3ミリグラムを含む水を人々が飲んだとしても、癌の死者が増える確率は限りなくゼロに等しい。

 福島原発から流出した放射性物質の中には、プルトニウム以上に危険性の高いものもある。原子炉建屋から放出された水蒸気には、放射性ヨウ素131と放射性セシウム137が含まれている。プルトニウムと比べれば、どちらも半減期はずっと短い(ヨウ素131は8日、セシウム137は30年)が、流出量が多いうえに、空中を浮遊して遠方まで飛ぶ。

 福島原発の放水口付近の海水からは、基準値の数千倍にのぼるヨウ素131も検出されている。プルトニウムほど強力な放射性はないものの、摂取したり吸い込むことで発癌リスクが高まる点は同じだ。

 日本の原発危機の深刻度を軽視すべきではないが、心配すべきはプルトニウムの問題ではなさそうだ。

Reprinted with permission from Foreign Policy , 31/3/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、ゼレンスキー氏と会談 支援遅れ謝罪し追

ビジネス

米9月利下げ観測後退、予想上回る雇用統計受け

ビジネス

米5月雇用、予想上回る27.2万人増 失業率4.0

ワールド

ロシア中銀、4会合連続金利据え置き 7月利上げ示唆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり

  • 5

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 6

    なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったの…

  • 7

    正義感の源は「はらわた」にあり!?... 腸内細菌が…

  • 8

    アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    世界大学ランキング、日本勢は「東大・京大」含む63…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 3

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中