最新記事

中間選挙

ティーパーティーのアブナイ外交政策

アメリカ中間選挙の行方を左右する急進保守派の頭の中は、国内と神様のことでいっぱい

2010年11月2日(火)18時59分
モルト・ローゼンブルーム

正気じゃない! ペイリンらをヒトラーになぞらえて抗議するプラカード(10月30日、ワシントン) Jonathan Ernst-Reuters

 ヨーロッパを本拠とする記者の私にとって、アメリカの草の根保守連合ティーパーティーの外交政策を説明するのは簡単なこと。「政策なんてない」だ。アメリカの東海岸から西海岸、さらに中部も何カ所か回った末の結論だ。

 ティーパーティーの世界観とは? 不思議の国のアリスがウサギの穴に落ち、いかれ帽子屋とのお茶会に出て、「首をちょん切れ!」と叫ぶ気まぐれな女王に出会うようなものだ。

 ここテキサス州選出の共和党保守派のロン・ポール下院議員は、米外交専門誌フォーリン・ポリシーで1つの外交方針をぶち上げた。イラクとアフガニスタンでの戦争を終わらせることが、ティーパーティーに繁栄をもたらすというものだ。

 ポールいわく「諸外国との交流は民間レベルに任せ、政府は介入しないという伝統的なアメリカの外交政策に立ち戻る。それが我々の道徳面・財政面での健全さを取り戻す唯一の手段だ」

 これはティーパーティーの基本的信条と一致する。彼らの主張とは、政府は国民の生活に口出しすべきでない、財政支出を減らしてこれ以上増税するなというもの。だが外交政策となると、ティーパーティーの意見は一枚岩ではない。

 ティーパーティーの広告塔、サラ・ペイリン前アラスカ州知事は、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領の攻撃的な外交政策を支持し、軍事予算の削減に反対する。彼女は、口うるさい外国人には物事の道理を分からせてやるべきだと主張する。

 ほかのティーパーティー指導者たちといえば、分かりやすい言葉を並べ立てるのに終始している。彼らを支持する一般大衆はどうせ小難しい話は嫌いだからだ。

地球環境破壊も神の思し召し

 ニューヨーク・タイムズは「曖昧なティーパーティーの外交政策」という10月21日付け記事の中で、ティーパーティーの主要グループ「フリーダムワークス」を率いるディック・アーミー元下院議員(共和党)に、ティーパーティーに外交政策はあるのかと尋ねている。アーミーの答えは、「ないだろうな」だった。

 テキサス州では「ティー(お茶)」が、地ビールのローンスターと同じくらい大人気。それを考えたら、「曖昧」などといって済ませている場合ではない。私は今回、テキサス大学でジャーナリズムを教える3人の教授とランチをしたが、外交経験が豊富な彼らにティーパーティーは世界をどう見ているのかと聞くと、3人とも鼻で笑ってみせた。

 選挙前にはアメリカ中がそうなるが、テキサスでも国境より外の問題に考えをめぐらせる人はほとんどいない。考えるとしても、自分の州のちょっと先くらいだ。テキサスのライブハウスで、あるミュージシャンは「ベイカーズフィールド(カリフォルニア州の都市)」という曲を熱唱した後、こうジョークを飛ばした。「テキサス州法に定められているんだ。カリフォルニアの曲を歌ったら、次の2曲はテキサスのものでないといけないってね」。そこで彼が歌ったのは「アビリーン(テキサス州の都市)」だった。

 しかし米国内でも国外でも、アメリカの今後を懸念する人は多い――世界中の様々な問題をよそに、アメリカは自国の問題にしか関心を示さなくなるのではないか。パレスチナやパキスタンの紛争、世界経済の構造変化、さらに温暖化などの環境問題はティーパーティーの優先事項とはかけ離れている。ティーパーティーにとって、こうした問題を否定することは「信念」と言ってもいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中