最新記事

米政治

オバマ政権を支える「帰国組」の底力

2009年4月24日(金)02時04分
ジェフリー・バーソレット(ワシントン支局長)、ダニエル・ストーン

 また米国務省の推計によれば、在外アメリカ人は500万人以上。これから大人になる世代にとっては世界が就職や投資、娯楽、教育の舞台になるだろう。

 NASA長官候補のグレーションは1歳半だった52年に、宣教師だった両親とアフリカへ渡った。一家はニューヨークから蒸気船でケニアのモンバサ港まで行き、そこから車でコンゴに入った。

 最終的にコンゴから引き揚げるまで、一家は政変や内戦で3度にわたり国外へ避難した。3度目の64年には全財産を失ってケニアに逃れ、67年にアメリカに帰国した。

 「あるとき突然、反政府軍が来るから逃げろという事態になる」とグレーションは語る。「生きていること自体が贈り物であり、自由や命など当然と思っていたものがとても貴重で、命に代えてでも守る価値があることに気づく」

 グレーションがオバマに出会ったのは、米欧州軍司令部(EUCOM)の戦略・計画・政策部長として上院議員のオバマに外交政策を説明したときだ。06年にはオバマのアフリカ訪問に同行した。

 グレーションは昨年共和党を離党し、ニュージャージー州の予備選でオバマに一票を投じた。環境や貿易、エネルギー、人権など「ボーダーレス」な問題を重視するオバマに引かれたという。

 「私のようにアフリカ人に囲まれて育つと、彼らを個人として見るようになる」と、グレーションは語る。「私にとってはアフリカの親しい仲間だ。だからダルフール紛争やコンゴ東部の混乱も、国際問題というだけでなく、そこの生身の人々のことを考えてしまう」

 外国に住んでいると、現地の反米感情に直接触れる場合もある。第二次大戦後にパリ郊外の現地校に通ったジョーンズは、「戦後のフランスには米軍基地がたくさんあり、アメリカの影響力が大きかったため、反米感情が非常に強かった」と振り返る。

 少年時代のジョーンズは、サッカーではなく野球を愛するアメリカ的生活に憧れた。だがアメリカの公民権運動のニュースを見て衝撃を受けたという。大規模デモや白人至上主義の秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)の起こした残忍な事件がフランスのテレビに映し出された。ジョーンズはアメリカ人であることに誇りを感じていたが、一方でテレビ画面で見るアメリカにショックを受け、混乱したという。

 ある朝ジョーンズ家の黒いシボレーに、白いペンキで「アメリカに帰れ」と落書きがされていた。周囲との緊張がけんかに発展したこともある。「国籍がけんかの原因になることが最も多かった」と、ジョーンズは言う。

真意を肌で感じ取る力を

 しかしジョーンズは、しだいにフランスを好きになっていった。彼が通った学校では、クラスメイトにドイツやスペインなどNATO加盟国出身の子供もいた。その経験は後にEUCOMの司令官になったときに役に立った。「微妙なニュアンスを聞き分け、相手の言葉の真意をつかむ力を身につけた」とジョーンズは言う。「国際舞台でうまくやるには、一つの問題をさまざまな角度から見られるようにならなければならない」

 ジョーンズは若者に対し、世界に飛び出して見聞を広めるよう勧めている。そのチャンスをみすみす逃す者は、「狭くなるこの世界で成功するための重要な資質を取り逃すことになる」と彼は言う。「そして一国の指導者になる人材の必須条件でもあると思う」

 その意見にはオバマも大きくうなずくにちがいない。

[2009年1月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、応援演説で円安メリットに言及 米関税のバ

ワールド

米政府機関の一部が閉鎖、短期間の公算 予算案の下院

ビジネス

中国1月製造業PMIが50割れ、非製造業は22年1

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 4
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 5
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 6
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中