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名古屋のものづくりの現場から生まれた、唯一無二のアップサイクル品

2024年4月17日(水)18時05分
森田優介(ニューズウィーク日本版デジタル編集長)

今年創業70年を迎える同社は、2022年にロゴを刷新し、社屋を改修している。そのときに同社のCI(コーポレートアイデンティティ)を構築したのが久保さんだ。JR東日本Suicaロゴマークのアートディレクションなどでも知られ、京都芸術大学の准教授も務める久保さんは、今回、近藤さんからの依頼を二つ返事で引き受けたという。

「廃材でトロフィーを作ると聞いて、とても興味深いと思いました。ただ、かっこいいものを作りたいと近藤さんがおっしゃるので、それはプレッシャーでしたけれど(笑)」と、久保さん。

近藤印刷が中心となって運営している「中川運河学習室」というグループがある。中川運河とは名古屋港と名古屋の都心を結ぶ水運物流の要で、古くから名古屋の産業を支えてきたのが中川運河エリアだ。「学習室」という名称からはイメージしづらいかもしれないが、地域の企業や行政、学生を巻き込んで、サステナビリティ事業を推進し、地域共創により循環経済を生み出そうとしている。

「中川運河というものづくりの街で、廃材を使ってトロフィーを作る。だったら、学習室の仲間であるアルプススチールの長谷川さんに相談しようと思いました」と、近藤さん。こうして、3者のコラボレーションが始まった。

長谷川さんの説明によれば、アルプススチールでは製造に使用する金型の90%を自社で作っている。ロッカーなどのオフィス用収納家具は、モデルチェンジがあまり頻繁ではなく、そのため同じ金型を10~20年使い続けることも珍しくない。一方、金型を解体して、使えるパーツはリユースすることもある。

そんな中で、工場の一角に保管されていた金型のパーツというのは、20年も30年も使われた後に「引退」したモノたちと言えるかもしれない。材質は鉄。さびだらけだったこのパーツがトロフィーになるかもしれないと、長谷川さんはひらめいたのだ。

当初は、金型のパーツをそのまま使うのとは異なる案もあったが、編集部への提案も経て、方向性は決まっていった。近藤さん、そして久保さんも東京から名古屋に飛んで、アルプススチールの工場にトロフィーの「素材」を選びに行った。

トロフィーは、5部門の部門賞と最優秀賞で計6つになる。200~300あったパーツの中から、「素材」として面白い形のものが選ばれた。形状や穴の位置は1つ1つ異なるが、どれも鉄製なので、サイズは文庫本程度と小さいのに、とても重量感がある。

「鉄の塊で、さびていたり、汚れていたりもしたけれど、そのままでもいいんじゃないかと思うぐらい、かっこいいと思ったんです」と、久保さんは振り返る。「SDGsは、自分たちがもともと持っている価値観を変えていくことでもある。物を作っては、捨ててきた価値観。だとすると、トロフィーの在り方も変わっていい」

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