

ベン・アフレックがお笑いネタにされていた時のことを覚えているだろうか? 歌手のジェニファー・ロペスと婚約した当時は2人合わせて「ベニファー」と呼ばれ、ベタベタする様子がタブロイド誌の格好の材料になった。盟友マット・デイモンとのコンビでは「頭が良くないほう」と言われていた。
03年には、女優ミンディー・カリングが脚本を書いた『MATT&BENN ―マット&ベン―』というオフオフ・ブロードウェイの爆笑コメディまで上演された。アカデミー賞脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』の脚本がアフレックとデイモンの共同執筆ではなく、実は空から降ってきたという話だった。完全にアフレックを馬鹿にしている。
そのアフレックが監督・主演・共同脚本を務めた『ザ・タウン』で見事な転身を遂げた(日本公開は2月5日)。冗談抜きで、彼は新世代のクリント・イーストウッドと言っていい。『ザ・タウン』は銀行強盗が主人公のスリリングな犯罪映画だが、同時に愛と友情、落ちこぼれた人生から這い出そうとする男の苦悩も描いている。
これで、アフレックの監督デビュー作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』の出来栄えがまぐれでなかったことが証明された。しかも彼がイーストウッドのような名監督の道を歩む期待も抱かせる。娯楽と芸術を融合させ、観客を楽しませつつ大切なメッセージを伝える『許されざる者』のような作品を生み出せる監督だ。
監督としても実績を残している大物俳優といえばジャック・ニコルソン、デンゼル・ワシントン、ティム・ロビンスなどがいる。しかし若手俳優で、真の映画監督としての力量があるのはアフレックとジョージ・クルーニーだけだ。
『ザ・タウン』はお気楽な現実逃避の作品に思えるかもしれない。しかしそこには控えめながら深遠なリアリズムが満ちている。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』と同じく舞台は労働者階級が暮らすボストンの片隅。銀行強盗が稼業のように代々受け継がれている街チャールズタウンだ。アフレック本人が育ったのはボストンでも裕福なケンブリッジ地区だが、抑圧された労働者階級の暮らしに共感をみせる彼は葛藤を抱える強盗団のボス、ダグ・マクレイを演じきった。
夜の路面に水をまくような手法は取らない
映画は迫力の銀行襲撃シーンで幕を開ける。銀行に押し入ったダグたちは逃走の際、支店長のクレア(レベッカ・ホール)を人質として連れ去る。やがてダグはクレアと恋に落ちるが、彼女はダグが強盗団の1人だとは気づいていない。心情を語るような会話はないが、観客にはダグがクレアの純粋さと知性に引かれていることが伝わってくる。
2人がお互いの気持ちを打ち明けるシーンはとてもさりげなく、イーストウッドっぽい。続いて突入するアクションシーン――銃を撃ち合い、狭い通りでカーチェイスを繰り広げる――の激しさとは対照的だ。『ザ・タウン』は幼い子供が失踪する『ゴーン・ベイビー・ゴーン』のように胸をえぐる物語ではない。しかし、FBI捜査官フローリー(ジョン・ハム)が強盗団を追い詰めていく巧みな展開に思わず引き込まれてしまう。
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