最新記事
半導体

TSMCが人材を独占し、日本企業は生き残れなくなる? 高給だけじゃない「熊本工場」の衝撃度

SHOCK WAVE FROM KUMAMOTO

2024年3月14日(木)17時14分
林 宏文(リン・ホンウェン、経済ジャーナリスト)

JASMの給与に多くの日系企業が衝撃を受けたという。TSMCが高給で人材を独り占めしたらわれわれが生き残れなくなると多くの企業が愚痴をこぼしたが、この衝撃がソニーや三菱、ルネサスエレクトロニクス、東芝、ロームといった半導体メーカーの採用に影響を与えるのは間違いないだろう。

次に、TSMCが日本に対しては、熊本の12インチ工場以外にも、横浜と大阪へのIC設計センター(TSMCジャパンデザインセンター)の設置と、茨城県への3次元IC先端パッケージング研究開発センター(TSMCジャパン3DIC研究開発センター)の設置というかなり包括的な投資を行っている点だ。

IC設計分野では、TSMCは19年から既に東京大学と先端半導体の技術提携を行っており、20年には横浜に最初のIC設計センターを、22年末には大阪に2つ目のIC設計センターを設立した。

この2つのIC設計センターは台湾本社の研究開発センターと直結しており、3ナノメートル先端プロセスの研究開発に参加すると同時に、顧客である日本のIDM大手の設計サービスを支援することにもなっている。

ウエハー製造分野について日本の業界筋は、TSMCは今後、熊本に第2工場を設立して、より先進的な7ナノメートルプロセスを導入する可能性があるという(24年2月6日に正式決定。トヨタ自動車も出資し27年の開業を目指す)。

これらを総合すると、TSMCの日本での生産コストは比較的低く抑えられ、利益獲得の機会は大幅に増え、より包括的なレイアウトが行われたということになる。

日本の顧客とより深いパートナーシップを結ぶだけでなく、TSMCは日本を、設計やパッケージング・検査、より高度なプロセス等を研究開発し、人材を増員するための重要な海外拠点と見なし、特に半導体材料開発と人的資源における日本の優位性を吸収して、台湾の先端プロセスと先端パッケージングの量産能力をさらに向上させようとしている。

newsweekjp_20240314024401.jpg林 宏文
Lin Hung-Wen

台湾の経済・テクノロジー記者。経済日報記者、週刊誌「今周刊」副編集長などを経て作家に。TSMC取材30年の成果をまとめた『晶片島上的光芒(半導体の島・台湾の輝き)』を昨年7月に上梓(3月22日に日本語訳版『tsmc 世界を動かすヒミツ』がCCCメディアハウス社から刊行)。ほかに『恵普人才学(ヒューレット・パッカードの人材学)』、『商業大鰐SAMSUNG(ビジネスの大物SAMSUNG)』などの著書がある。

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

<本誌2024年3月19/26日合併号掲載>

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、現時点でインフレ抑制に利上げ必要ない=クリ

ビジネス

テスラ株主、マスク氏への8780億ドル報酬計画承認

ワールド

スウェーデンの主要空港、ドローン目撃受け一時閉鎖

ビジネス

再送米国のインフレ高止まり、追加利下げに慎重=クリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中