最新記事

経営

ドラッカーが遺した最も価値ある教え(後編)

2015年7月23日(木)17時15分

自分の頭で考える

 ドラッカーはさまざまな問題の解決策を指南するなかで、私たちに「考える」ことを求めていたように思える。ドラッカーは、常識や前例を無批判に受け入れることを拒んだ。「みんなが知っていることは、たいてい間違っている」と、教室でよく言っていたくらいだ。

 ドラッカーは、あらゆることを深く知っていると主張することはけっしてなかった。コンサルティングをおこなうときは、とりわけそうだった。むしろ、自分はなにも知らないと言い、自分の頭で考え、問いを発することから始めた。第35章で紹介した第二次世界大戦期の造船のエピソードを思い出してほしい。ヘンリー・カイザーは、造船についてなにも知らない状態から出発したからこそ、造船に革命を起こし、それまで世界最高の技術を擁していたイギリス以上に、迅速に、そして効率的に船舶を建造することに成功したのである。

ウサギとカメ

 一九八一年から一〇年あまりオーストラリアで開催されていた「シドニー・メルボルン・ウルトラマラソン」は、地球上で最も過酷なマラソンと呼ばれていた。八七五キロを七日間で走る。もちろん、途中で休憩を取ることが許されており、ほとんどのランナーは昼間ずっと走り続け、夜に休んだ。

 一九八三年の大会に、クリフ・ヤングという無名のランナーが登録した。職業はジャガイモ農家、年齢は六一歳。多くの人は、完走できればいいほうだろうとみていた。しかし、この男性は常識に従うことを拒否し、まったくの「無知」の状態から作戦を考えた。そして、夜に休憩を取るものと決まっているわけではないと気づいた。それなら、自分はゆっくりしたペースでレースを進める代わりに、夜も寝ずに前進し続けることにしようと決めた。

 結果はどうだったか? ヤングの優勝だった。大会記録を二日近くも短縮し、二着のランナー(ヤングの半分の年齢だった)に一日近い差をつけてゴールしたのである。

 ドラッカーの最も重要な教え、それは、自分の頭で考え、問いを発するべし、ということだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中