最新記事

ゲーム

任天堂を追い詰めるアップルの最強戦略

iPhoneやiPadに「ゲームのルール」をひっくり返された任天堂。スマホ全盛時代に老舗メーカーは王者として返り咲けるのか

2011年9月5日(月)13時05分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

ゲーム・チェンジ 任天堂はスマートフォン全盛時代を見すえた新戦略を打ち出せるか Danny Moloshok-Reuters

 任天堂は1989年に、携帯型のゲーム機「ゲームボーイ」を開発した。少なくとも理論上はヒットするはずのない製品だ。緑がかったグレーの画面はモノの形がぼやけて見づらく、すこぶる評判が悪かった。一方、同じ頃に米アタリ社が発売した携帯型ゲーム機「リンクス」は、カラー液晶画面を搭載し、ほとんどどこを取ってもゲームボーイより優れていた。

 しかし、ゲームボーイには2つの大きな強みがあった。まず低コストで単純な作りなので、速く大量に作って安く売れるということだ。価格はリンクスの189ドルに対しゲームボーイは109ドル。工場から出荷するスピードもリンクスよりはるかに速かった。

 より重要なことに、任天堂は少数のキラーアプリの重要性を理解していた。例えばテトリスは、簡素な画面でも夢中になれるパズルゲーム。スーパーマリオのゲームボーイ版もそうだ。ゲームボーイは、たちまち大ヒット。累計1億1800万台以上を売り、携帯型ゲーム機史上最高の成功を収めた。

 ゲームボーイは、スペック以外の魅力でハンディをはね返すことの繰り返しだった任天堂の歴史の縮図だ。新型ゲーム機のWiiが、マイクロソフトのXbox360やソニーのプレイステーション3を打ち負かしたのも同じだ。

 任天堂は、ライバルがしばしば見落とす重要な点を常に理解してきた。何より重要なのはゲームで遊ぶ面白さで、ハードウエアのスペックではない。スペックが劣るシステムでも、優れたゲーム体験は創造できる。

 しかし今、任天堂は窮地に陥っている。先週発表した今年4〜6月期決算では、純利益で255億円の赤字を出した上、今年の純利益予想を前回予想より74%も引き下げた。

WiiやDSの販売が急減する一方、最新のニンテンドー3DSもぱっとしない。同社は今年の3DSの販売台数を1600万台と予測していたが、1〜3月期の実績はわずか70万台。販売てこ入れのため、8月から3DSの価格を2万5000円から1万5000円に引き下げると発表した。

ゲームの面白さが一番

 それもこれも、アップルという会社が任天堂の「ゲームのルール」を盗んだからだ。アップルの携帯向けOS「iOS」を使ったiPhoneやiPadなどの端末は、携帯ゲーム機市場の大きなシェアを奪ってまだ急成長を続けている。

 調査会社のフラリーによれば、09年の携帯ゲーム機市場に占めるシェアは任天堂が70%、iOSのシェアは19%だった。しかしわずか1年後には、任天堂のシェアは57%に落ち、グーグルの携帯向けOS「アンドロイド」搭載機も合わせたスマートフォンのシェアは34%に上昇した。

 アンドロイドやiOSの端末が快進撃を続けているのは、任天堂の携帯ゲーム機が長年トップに君臨したのと同じ理由だ。入力手段がタッチスクリーンに限られるスマートフォンやタブレット型パソコンは、スペックとしては、3次元の動きをリアルに再現できる3DSには到底かなわない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中

ビジネス

中国大手銀5行、25年までに損失吸収資本2210億

ワールド

ソロモン諸島の地方選、中国批判の前州首相が再選

ワールド

韓国首相、医学部定員増計画の調整表明 混乱収拾目指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中