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二宮和也(1983-)

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2010.01.21

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二宮和也(1983-)

「役作りはしなかった」

2010年1月21日(木)12時01分
大橋 希

 『硫黄島からの手紙』で、主演の渡辺謙以上に見る者の心をとらえるのが、西郷二等兵を演じる二宮和也だ。肩の力を抜いた自然体でリアルな人間性を表現した二宮に、本誌・大橋希が聞いた。

----主役をしのぐほどの存在感だったが、どんな役作りを?

 もともと僕は役作りをするタイプではないけど、今回はそれに輪をかけて何もやりませんでした。台本をもらったのも、撮影開始ぎりぎりという感じだったので。

----では、「こんな戦争やってられない」という、やる気のないキャラクターは監督の指示なのか。

 そうではないです。「戦争中にこんな奴いないだろう」という人物にしようと自分でねらってみた。台本を読んだとき、観客は西郷というキャラクターを通してこの映画を見るだろうと思った。だから、今の時代にもいそうな、観客が気持ちをのっけやすい人物になろうとした。映画を見やすくするには、そういう人が一人はいたほうがいいんじゃないかと思って。

----この戦いについて勉強した?

 書籍を読んだりはしましたが、参考にしたのは暑いとか、臭いとか、食べ物や飲み物がないといった点くらいかな。(米軍により硫黄島に)6800トンの爆弾が落とされたとか、地下壕を18キロ掘ったとか、何万人亡くなったとか、それはけっきょく後でわかったこと。戦争の最中はあまり関係ない。

----アカデミー賞助演男優賞をねらっていたりする?

 全然考えてないですよ。そう言ったほうが面白いかなと思って、テレビでは言ってましたけど。

----本当はそうでもない。

 うん。でも、アカデミー賞のノミネートの投票締め切りが1月13日だと聞いて、ノミネートされるような気がした。僕が映画のオーディションを受けたのが今年の1月13日だったので、その1年後ということに妙な縁を感じてしまって。でも話によると、助演賞の可能性はないみたいです。作品賞なんかは取れるんじゃないかな。

----思い入れのあるシーンは?

 これ、とは言えませんが、全編を通してドーンとのしかかってくる強烈なメッセージがあると思う。泣けるから、面白いからもう一回見たい映画ってありますよね。残念ながら、僕たちが発表したのはそうした娯楽映画ではない。たぶん僕だったら、こういう映画は1回しか見ない(笑)。だからこそ1回で、どれだけのメッセージを与えられるかが挑戦でした。

----現場の雰囲気は。

 非常に明るい現場でした。もちろん、こうした作品に触れているからこそ、なんだろうけど。伊原(剛志)さんと野球を見に行ったり、みんなでバーベキューしたり、アメリカを満喫しました。

 ハリウッドや(スティーブン・)スピルバーグ、クリント・イーストウッドというのもあるけど、僕はこの共演者の方たちだからこそできた作品だと思っている。もちろん、この人たちを選んでくださったクリントに感謝ですが。

 監督からは「こうして、ああして」ではなくて、「本当に好きにやっていいよ」と言われていた。だから、監督を通した渡辺謙さんではなく、謙さんと俺でぶつかり合えた。非常にラッキーでした。

----妻役の裕木奈江が、西郷と年齢的に不釣り合いな気がした。

 細かい設定をすごく気にする人もいるけど、伝えたいのはそこじゃないんだよって思う。「おまえが結婚していて赤ちゃんがいるなんて信じられない」とか、僕もいろいろ言われた。「それは、俺を俺として見ているからだ。西郷として見ていないからだよ」って思ったりするけど。

 そういうことにとらわれちゃうのはもったいない。だってね、彼女は夫を戦争で亡くしたバツイチで、その後で俺と一緒になったのかもしれない。いろんな状況が考えられるから、僕は気にしなかった。演じる側はふつう、細かい設定にはこだわらないですよ......うそ、気にする人もいますけど(笑)。

----見た人には何を感じてほしい。

 クリントは、やはり若い人に見てほしいという気持ちが強いんですが、それは僕も同じ。

 むずかしいことを考えたくなる映画だから、見た人は「よかった」のひと言で終わらせたくないかもしれない。もっと違うことを伝えたいのに言葉が見つからなくて苦しいと思うかもしれない。でもまずは、「感動した」でいいと思う。

 この作品が成長することはない。見終わって疑問に思うことがあったら、ちょっと勉強するだけで作品と自分の距離は縮まっていく。だからこそ、若い人がこの映画を見る意味があると思うんです。

 出来上がった作品を見て、「もっと説明してあげてもいいのに」と僕は思った。クリントは、見る人にあまり情報を与えていないんです。でもそれは、自分で考えたり、勉強したりしてもらいたいからなんだけどね。 

[2006年12月27日号掲載]

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