最新記事

エコ助成金の大いなる勘違い

温暖化「うま過ぎる話」

エコ助成,排出権,グリーンニューディール
環境問題はなぜ怪しい話や
誤解だらけなのか

2009.11.24

ニューストピックス

エコ助成金の大いなる勘違い

政府の後押しは技術の停滞や企業の競争力低下を招く恐れもある

2009年11月24日(火)12時09分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)

 環境保護対策は過去数十年で最大の規模を誇る公共プロジェクトだ。風力・太陽エネルギーなど再生可能エネルギー市場の成長を促すため、世界で毎年、助成金などの形で1000億ドルもの資金が動いている。

 目標は立派だ。温室効果ガスの排出量削減、新たなエネルギー源の普及促進、成長産業での雇用創出----だがこの大規模な取り組みは必然的に助成金や優遇措置の争奪戦を引き起こしている。

 米議会でのクリーンエネルギー法案の審議期間中、1150の団体が2000万ドル以上を費やしてロビー活動を行った(同法案によると、12年までに年間600億ドル規模に上る排出権取引市場が生まれることになっている)。

 米政府はこれまで何度も新産業の活性化を後押ししてきた。だがコンピューターチップもインターネットも、元をたどればアメリカの軍事研究。環境保護対策のように軍事とは無関係な部門が、最初からこれほど政府の後押しを受けるのは珍しい。

 問題は政府の関与が大きな無駄を生む恐れがあること。環境保護という本来の目的が、政策を実施する過程で置き去りにされがちだという難点もある。

 サトウキビを原料とするブラジル産エタノールは、コストや環境保護効果の面で優れていたにもかかわらず、アメリカとヨーロッパの農業従事者のロビー活動によって欧米の市場から締め出された。ヨーロッパ域内でも大半の国々がバイオ燃料に関する独自の基準を設け、競合製品の国内市場参入を難しくしている。

 国際エネルギー機関(IEA)とOECD(経済協力開発機構)はドイツに対し、13年までに総額1155億ドルに達する太陽エネルギー関連の助成金を廃止するよう求めている。

 この助成金の目的は、生産コストを減らすことで環境に優しい技術のための市場を育成すること。だがドイツの太陽エネルギー促進策は、助成金が元の意図とは逆の結果を生む典型的な例になってしまっている。

助成金が雇用を減らす

 ドイツでは再生可能エネルギーが全体に占める割合が01年の3%から現在の15%へと急増するに伴い、1キロワット時当たりの助成金は減るどころか増えている。つまり、クリーンエネルギーのコストは上昇しているのだ。

 ドイツにあるライン・ウェストファーレン経済研究所のエネルギー経済学者マヌエル・フロンデルは、同国の法外な助成金は技術革新を阻み、コスト競争力の高い技術の普及を遅らせていると言う。一時期、太陽電池モジュールの値下がりが止まったのは、ドイツの助成金で世界中のモジュールが買いあさられたからだ。

 ドイツの太陽エネルギー政策は雇用促進効果の面でも成果が挙がっていない。助成金が新たな産業とハイテク部門の雇用を生み出すはずなのに、国内の太陽エネルギー関連企業は人員削減を行っている。助成金のせいで効率化やコスト削減の努力を熱心に行う必要がないため、中国との競争に負けて市場から締め出されつつあるのだ。

 実際には、環境保護テクノロジーはもはや、多くの人が思っているような「未熟な隙間産業」ではない。風力タービンの製造業者にとって、世界全体の市場は既に500億ドル規模になっている。

 多くの農業助成金は農業従事者たちに渡らずに、農業関連の複合企業や大手食品会社を潤している。同様に、環境関連の助成金で潤っているのは環境保護テクノロジーのベンチャー企業ではなく、大企業だ。化学大手デュポンや電機大手シーメンス、電力会社、投資銀行は助成金や新たな排出権取引市場で儲けようと血眼になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中