コラム

「自分たちは欧米研究者の下請けか?」自立を目指すアラブ人研究者たち

2020年10月15日(木)18時00分

アラブ諸国の研究者たちは、独裁政権のもとで、長らく自国政府の御用学者を強いられてきた。それに反発した若手研究者たちは、欧米に留学し欧米の研究機関で活躍の場を見出した。だが、彼らは今、欧米のカネと政策に従属して物事を単純化してしか分析できない、「わかりやすさ第一」の研究には甘んじたくない、と主張し始めている。自国であれ、欧米であれ、政府や流行の学問の言うままにはならないぞ、と胸を張る。

反政府デモが続くレバノンで、一年前のデモ発生時にデモ隊が活動拠点にしたのが、「卵」と呼ばれる現代建築内部の空きスペースだった。そこでは、知識人、芸術家、学者などが自発的に討論会や講演会を開催し、デモ隊の間で知識を高めあった。同じ時期に首都中心で座り込み運動が続いたイラクでも、各大学がそれぞれ広場にテントを張って、積極的に反政府抗議活動の核を形成した。そこでは知識人の役割は、政府にも外国にもおもねることなく、人々の自立への模索を支えるものとして機能している。それこそが、「研究」の一番の存在意義だ。

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プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。
コラムアーカイブ(~2016年5月)はこちら

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