コラム

エプスタイン疑惑の深層に横たわる2つの問題

2026年02月11日(水)15時00分

2つ目の問題は、エプスタイン疑惑に関して歯切れの悪いトランプ大統領への批判が広がっていることです。それは、単に大統領にスキャンダルが出て失望したというだけではなく、その奥には2回目の当選となった2024年の大統領選でトランプ氏に投票したZ世代の落胆という現象があります。

2024年にトランプを当選させたのは、保守化したZ世代だと言われていますが、正確に言えば彼らはAIの進歩により雇用が奪われるとか、グローバリズムで雇用が空洞化することに、現状への不満と将来不安を抱えていました。その不満と不安は、クリントン=オバマ=バイデン=ハリスに連なる民主党の穏健派を敵視することに繋がっていました。


民主党の穏健派は、最下層への再分配と、多様性の徹底をする以外には、何も手を付けようとしなかっただけでなく、シリコンバレーの巨大化を放置し、グローバル経済の繁栄を歓迎していたからです。当時のZ世代の心理は、2016年に1回目の当選をした際にトランプ氏を支持したコア支持層とは異なっていました。

2016年のコア支持層は、反エリートの怨念を抱える中で、現状のヒエラルキーを壊すことへの期待感からトランプ氏を選んだ傾向があります。ですから、当時のトランプ氏は一種のスキャンダラスな存在であり、またスキャンダラスであればあるほど「お行儀のいいエリートとは違う」として支持された側面がありました。

ですが、2024年にトランプ氏を支持したZ世代はもっと真剣な選択としてトランプ氏を選んだのです。AIが仕事を奪う未来への絶望、就職難や物価高による生活苦、これに対する民主党の不甲斐なさから、トランプ氏に投票したのでした。

公開された文書の多くが黒塗り

そのトランプ氏が怪しいフィクサーと交友関係があり、その関係についての真相を隠しているというのは、Z世代には許しがたいものとして映っていると思われます。そして、若者たちの将来不安は改善するどころか、2025年夏にはいきなり大卒人材への就職氷河期がやってくるなど、事態はどんどん悪化しているのです。

そのような現状への絶望がトランプ氏への落胆に繋がっていくなかで、エプスタイン文書の公開を渋ったり、黒塗りで出したりという行動によって、トランプ氏の権威は日々低下しているということが言えます。

現時点では、上下両院議員に対する秘密会で、ファイルの全貌が公開されたとしていますが、その多くは墨塗りであり、議員たちは失望の声を上げています。一方で、鍵を握るギネーヌ・マックスウェルは黙秘権行使を続け、彼女の口から「トランプ夫妻の関与」に関する情報が語られる可能性は見えていません。共和党議員の一部からは「中間選挙が近いので幕引きを」という声も出始めています。

そうしたタイミングで、クリントン夫妻の宣誓証言が実現した場合に何が飛び出すか、とりあえず全米の注目はこの点に集中しているというのが現状です。

【関連記事】
トランプ政権の勢いに変調の兆しが漂い始めた
日本経済低迷の主因である「空洞化」をなぜ総選挙で議論しないのか

ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エリオット、LSEG株大量取得か 経営改善へ協議と

ビジネス

中国1月自動車販売19.5%減、約2年ぶり減少幅 

ワールド

米下院、トランプ関税への異議申し立て禁止規定を否決

ビジネス

深セン市政府、中国万科向けに116億ドルの救済策策
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 7
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story