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サッカーをフットボールと呼ばせたいトランプの執念
どういうわけかFIFAは今回「平和賞」を新設しトランプに授与した Jonathan Ernst-REUTERS
<その背景にはアメフトチーム買収を阻み続けたNFLとの長年の確執が>
トランプ米大統領は、「世界中でフットボールと呼ばれているスポーツが、アメリカではサッカーと言われているのはおかしい」と主張しています。そうなっている理由は簡単で、アメリカには独自の「アメリカンフットボール」があるので、これと区別するためです。これに対してトランプ氏は「アメリカンフットボールを別の名前に改名すべき」としています。「アメリカ・ファースト」を推進している大統領にしては、世界にアメリカを合わせるよう主張しているわけで、珍しく謙虚な姿勢のようにも見えます。
ですが、そこには複雑な事情があります。何よりも、トランプ大統領がアメリカンフットボールの最高峰であるプロリーグの「NFL」と、長年にわたる確執を続けている歴史があるからです。問題は今から44年前の1981年に遡ります。トランプ氏は、ニューヨークの住宅を対象とした不動産業からホテルとカジノのビジネスに進出して時の人となっていました。そのトランプ氏は、NFLのチームを買収してオーナーになろうとしたのです。
最初がボルチモア・コルツ、次いでニューイングランド・ペトリオッツに対して買収を仕掛けましたが、いずれも失敗。そこで、トランプ氏は独立リーグのチームを買った後に、その独立リーグを支配し、更にこれをNFLと合併させるという荒業に出ましたが、これも実現しませんでした。最後はトランプ氏が大統領選に出馬する直前の2014年にバッファロー・ビルズの所有権を手に入れようとしたのですが、これも失敗に終わっています。
どうしてNFLチームの買収ができなかったのかというと、当初はギャンブル事業を経営していたことがNFLの内部ルールに違反していたからでした。トランプ氏はこれを警戒して、別の企業名義で買収工作を進めたのですが、かえって心証を悪くしたようです。最後のブルズの時は、オーナーになるためには資産状態を正確に報告する必要があったのですが、その報告内容が不正確だとして認められなかったのでした。
NFLに対するトランプの執念深い不快感
そもそもNFLというのは、アメリカのプロスポーツ界でも最も経営姿勢が厳しいことで知られています。例えば、チケット、放映権、グッズなど全ての収入は一旦コミッショナー事務局に入ってから各チームに公平に分配されます。チームの実力を均等にするためにドラフト制度をはじめとして様々な制約があり、その結果、連覇が非常に難しいものとなっています。また、全国優勝を決めるスーパーボウルは先に開催地を決定するので、進出チームの本拠地「以外」の開催になるなど、公正・公平にリーグが運営されるような様々な規定が設けられています。オーナーの資産内容の審査もその一環で、NFLチームの経営権が安易なマネーゲームの対象にならないように厳格を極めています。
また、政治的中立や人種差別を厳格に禁止するといった姿勢も、全国的な人気に翳りを生じさせないための知恵と言えると思います。トランプ氏は、チームの経営権を入手できなかったという長い「確執」を通じて、NFLのこうした姿勢に対して執念深い不快感を抱いたようです。
一期目の大統領に就任した後は、人種差別への抗議のためにNFLの選手の一部が国歌や国旗に敬礼をしないという事件が起きました。こうした問題には慎重な態度を取るNFLに対して、大統領は厳罰で臨むようにと発言し、確執が取り沙汰されました。これもイデオロギーの問題というより、長年の対立の結果とも言えます。そんな中で、2024年に大統領職に復帰したトランプ氏は、2月に行われたスーパーボウルを観戦しましたが、NFLの政治的中立という規則を守って、中継したFOXは観戦する大統領の姿をライブでは放映しませんでした。
一方で、世界のプロサッカーを束ねるFIFAとトランプ氏の関係は良好のようです。FIFAは、どういうわけかFIFA平和賞という表彰制度を新しく設けて、その第1回の受賞者にトランプ大統領を指名しています。トランプ氏はこうしたFIFAの姿勢を歓迎しているようです。
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