コラム

日産とホンダの経営統合と日本経済の空洞化を考える

2024年12月18日(水)14時30分

北京のモーターショーに出展された日産のEVコンセプトカー(今年5月) CFOTO/Sipa USA/REUTERS

<製造工程だけでなく、研究開発、管理部門も日本国外に流出してしまうのであれば、日本発の3社が経営統合してもGDPには寄与しない>

まだ確定ではないと思いますが、自動車メーカーの日産とホンダの経営統合の話が進んでいるようです。共同で持株会社を設立して、三菱自動車の合流も視野に検討がされるという報道もあります。ハイブリッド技術を持たない日産にはメリットがあるとか、企業風土が異なるので難しいかもしれないなど、早速色々な観測が流れています。

トランプ再選を受けて、アメリカではEV化の流れはスローダウンしそうですが、一方でイーロン・マスク氏の政権入りもあり、必ずしもそうではないという見方もあります。いずれにしても、EV化は機構の簡素化につながり、自動車産業の構造を大きく転換します。自動運転も業界に与える影響は大きいでしょう。そんな中で、競争に負けないために、企業連合を組むという流れは不可避だと思います。


仮に日産、ホンダ、三菱自動車が統合されるとして、気になるのは統合が日本のGDPに寄与するかどうかです。第一印象としては、日本発のメジャーな自動車メーカーが統合するのであれば、純粋に日本の企業として世界で戦う巨大企業が誕生するような印象を受けます。

ですが、現時点での3社は、いずれも海外比率の高い企業です。売上だけでなく、生産という意味でも海外が主体です。その中で、売上については、人口減少が進む日本の市場には多くは期待できないでしょう。また生産については、各国が自国の経済や雇用に極めて敏感な時代ですから、完成車を日本で作って輸出するというスキームの拡大は難しいと思います。

管理部門も国外に流出するのか

また高度な部品の組み立て段階について、特にEV化にあたっては中国がモジュールの標準化を進めて大きなシェアを取る構えです。ですが、日本をルーツとする大規模な企業グループが誕生するのであれば、EVのモジュール生産においても、日本経済が大きなシェアが取れるような経営にシフトすることは検討すべきです。

管理の部分は、仮に2つか3つの大企業が経営統合するのであれば、共通する間接部門は3つ要らないのでリストラをするのが経営の常道です。ですから高度なDXを駆使して、ほぼ全工程を世界共通の英語で処理するように効率化することは生産性向上に必要だと思います。

仮にそのような改革が進むとしても、管理部門が国外に出ていくようでは、更に国内の知的雇用が細ってしまいます。DXによる高度な効率化、英語による処理になっていくのは必要だとしても、日本の企業なのであれば管理部門を日本国内に留めるかどうかは、大きな判断になると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

海外勢の米国債保有、7月も過去最高の9.15兆ドル

ワールド

ウクライナ戦争後の平和確保に協力とトランプ氏、プー

ビジネス

中国、TikTok巡る合意承認したもよう=トランプ

ワールド

米政権がクックFRB理事解任巡り最高裁へ上告、下級
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story