コラム

どうにも不自然な自民党の政治資金記載漏れ問題

2023年11月22日(水)15時45分
岸田首相

自民党全体の問題として岸田政権へのダメージも小さくない Kiyoshi Ota/Pool/REUTERS

<政治団体の収支状況を把握するには内部の人脈が不可欠で、告発には政治的意図があると疑わざるを得ない>

自民党の「五大派閥」が設立しているそれぞれの政治団体が、合わせておよそ4000万円分を収支報告書に記載していなかったとする告発状が提出されたことが、11月18日土曜に明るみになりました。具体的には、政治資金パーティーに20万円を超える支出をした団体の名前など、記載すべき事項が記載されていないということで、東京地検特捜部が捜査を始めたようです。


具体的な捜査としては、東京地検特捜部が、各派閥の担当者から任意で事情を聴いているという報道がありました。その五派閥と、それぞれの「記載漏れ金額」も公表されています。具体的には清和会(旧安倍派、1900万円)、志帥会(二階派、900万円)、平成研(茂木派、600万円)、志公会(麻生派、400万円)、宏池会(岸田派、200万円)です。まさに自民党の「五大派閥」が揃い踏みというわけです。

しかし、告発というのは、要するに情報提供、もしくは内部告発があったということです。内部告発は、例えば営利企業の反社会的な行動に関しては、内部告発行為そのものが社会的な利益になるので、告発者を守る必要があります。もちろん今回の内部告発も、脱法行為を明らかにするという社会的正義はあるわけです。ですが、政治の世界は企業活動とは性格が異なります。そう考えるとこうした告発そのものが政治的な意味を持ってしまうことは避けられません。

つまり、どうしても告発の背景というところに想像を巡らせてしまうことになります。まず、純粋に考えると、政治とカネに関する自民党の姿勢を正すために、まさに社会正義の立場から告発したということは考えられます。ですが、全く別団体の各派閥の収支状況とか、政治資金パーティーの収支などにアクセスするには、例えば政治家の秘書としての同業者の裏のネットワークなど、本当に「内部」の情報に接する人脈が必要です。そんなことまでして、社会正義を貫こうというのはストーリーとしてやや不自然です。

告発の背景には何がある?

そうなると、どうしても政治的意図を疑ってしまいます。

まず考えられるのは、記載漏れ金額について、岸田派が少なく、岸田派に近い順に少なく、遠い順に多くなっているという点です。これは偶然かもしれませんが、このまま公表すれば、例えば清和会(旧安倍派)は金額が多いので批判されるが、宏池会(岸田派)は比較的金額が少ないので、ダメージは小さいかもしれません。ですから、岸田派の周辺の人物が「ライバル派閥を貶める」ために、自派閥にもダメージを受ける形で、告発に踏み切ったという可能性は考えられます。

もっと言えば、岸田政権周辺の考え方として、「仮に自民党にダメージになるにしても、正義の告発をして自浄作用を促す」方が正しいし、結果オーライになるという考え方をした可能性はあるでしょう。

ですが、こうしたストーリーはどう考えても不自然です。内閣支持率が低迷しており、様々な批判を浴びている岸田政権には、こうした告発はダメージになりこそすれ、何も得をすることはないと思われるからです。何よりも、岸田首相は自民党総裁であり、今回の事件の全体に責任を負う立場でもあるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米消費者信用リスク、Z世代中心に悪化 学生ローンが

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story