コラム

2024年大統領選、バイデンは立候補するのかしないのか

2022年09月21日(水)10時45分

例えば、大統領は若者の雇用について自分は理解しているし、支援するのだと繰り返し強調しています。それどころか、コロナ禍の中では再三にわたって公的資金からの雇用対策や給付を大規模に行ってきました。ですが、大統領が演説で「若者の雇用」というとき、大統領の話しぶりなどからは「大昔の組合に守られた製造業現場の雇用」だとか、「20世紀的なオフィスワーカー」のイメージで語っているように聞こえるというのです。

そこには、高度な学位を取っても何度も転職を繰り返さないと十分な処遇を得られない苦しさとか、テレワークによるワークライフバランスの確保、あるいは不動産の高騰から別の地域で仕事を探さなくてはならない辛さといった、「今日的な苦しみ」については、大統領の世代には「どう考えても分かってはもらえない」という強いフラストレーションがあるのです。

環境政策もそうで、大統領が語ると「民主党らしい理想主義を現実と折り合わせる」ように聞こえるだけだというのです。大統領よりおそらくは半世紀近く先の時代を生きることになる若者層からすると、バイデン氏のスピーチからは、「温暖化による気象災害、干ばつ、山火事の激化」などへの切迫感が感じられないというのです。

そんな中で、9月に入って民主党の主要な政治家たちは、様々な形の発言を始めました。

今出馬すれば「票が減る」

例えば、バイデン大統領とコンビを組む、カマラ・ハリス副大統領は「仮に大統領が再選に向けて出馬すれば、自分は(副大統領候補として)誇りをもってこれを支える」としています。この発言を額面通り受け取る人は多くありません。そうではなくて、全く裏の意味、つまりバイデンが出馬辞退して自分が大統領予備選を戦う場合は、バイデン政権を挙げて誇りを持って自分を支えて欲しいという意味だと取れるわけです。

もっと露骨なのは、かねてより待望論の大きかった、カリフォルニアのガビン・ニューサム知事です。9月19日に同知事は、「バイデンが出馬しなければ、自分は断固として2024年の大統領選に出馬する」と述べて、話題になっています。

そんな中で、渦中のバイデン大統領は、CBSテレビのインタビューで、この時点の大統領としては異例の「2024年に出馬するかどうかは白紙」という発言をしています。現時点では「出る」といって、後で「断念」するのであれば理由のつけようはいくらでもあるわけですが、この時点で「判断はまだ」というのは極めて不自然です。

一部の見方としては、バイデン周辺としては、中間選挙における民主党の選挙戦を考えると、大統領自身が「2024年には絶対出る」と断言してしまうと、かえって「2022年には票が減る」計算があるという説があります。仮にそうだとしたら、事態は相当に切迫していると言わざるを得ません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story