コラム

サウジ・イラン断交は原油価格上昇を狙った「一種のヤラセ」

2016年01月05日(火)16時10分
サウジ・イラン断交は原油価格上昇を狙った「一種のヤラセ」

テヘランのサウジアラビア大使館前でシーア派指導者ニムル師の処刑に抗議する人々 Raheb Homavandi/TIMA-REUTERS

 新年早々、サウジアラビアのサルマン国王は、かねてより死刑判決の出ていたシーア派指導者を処刑しました。この処刑がイランを激怒させることは承知の行動であり、その直接の原因としてはサウジ領内におけるシーア派反政府運動が、イエメンでのフーシ派と連動する中で、アラビア半島の平和を脅かしていることへの危機意識があると推測されます。

 では、これでサウジとイランの関係はどんどん悪化していくのでしょうか?

 例えばサウジと「シーア派の多数支配によってイランとの関係を強めつつある」イラクの現政権との関係が決定的に悪化したり、さらにはイランを挟撃する効果を計算してサウジが同じスンニ派のISIL勢力との対決から逃げたりするようなことがあるのでしょうか?

 その延長線上で、中東で本格的な戦火が起こる可能性はあるのでしょうか?

 可能性は低いと思います。それは、今回の事態は、サウジとイランが「抜き差しならない利害対立」を抱えて、その衝突へと向かうコースを取った、その前哨戦ないし、序曲では「ない」と考えられるからです。

 では、ペルシャ湾をはさんだ両国には一体何が起きているのでしょうか?

 1つの鍵は、処刑報道後の展開の速さです。イランでは処刑のニュースを受けて、間髪を入れずに群衆がサウジの大使館に投石や放火を行っていますし、その放火事件を受けると、これまた即座にサウジはイランとの断交を決定して、イランの外交官に国外退去を命じています。

 一見すると、乾いた薪がメラメラと燃えるように一気に危機が進行しているように見えます。ですが、本当に深刻な危機が進行している場合は、そんなに「軽いスピード感」に乗って事態が動くことはないはずです。少なくとも同盟国や関係国との調整があって、その上で色々な努力の影が国際社会に漏れてきて、緊張が高まる中で事態が動いていく、国家というものが危機的な状況への突入を決意する場合にはそうした時間の感覚を伴うものです。

 では、今回の「お互いの電光石火」というのは何なのでしょうか? それは、「緊張を相互に演出している」つまり、サウジとイランの「一種のヤラセ」だと考えると辻褄が合います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

ニュース速報

ビジネス

中国11月PPIは前年比+3.3%、5年ぶり高い伸

ビジネス

焦点:高値突破の日本株に様相変化、中長期マネー流入

ワールド

韓国国会、朴大統領の弾劾訴追案を可決

ビジネス

TPP承認・関連法、参院本会議で成立 米脱退で「漂

MAGAZINE

特集:THE FUTURE OF WAR 未来の戦争

2016-12・13号(12/ 6発売)

AI、ドローン、ロボット兵士......進歩する軍事技術は 新時代の戦場と戦闘の姿をここまで変える

人気ランキング

  • 1

    今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる

  • 2

    韓国「崔順実ゲート」の裏で静かに進む経済危機

  • 3

    米ルビオ議員、南シナ海の領有権問題で対中制裁法案──トランプ新政権に行動を促す

  • 4

    トランプが仕掛ける「台湾カード」 中国揺さぶりのも…

  • 5

    光熱費、電車賃、預金......ぼったくりイギリスの実態

  • 6

    マドンナ、トランプに投票した女性たちに「裏切られ…

  • 7

    来週プーチン露大統領来日、北方領土への期待値下げ…

  • 8

    「トランプ劇場」に振り回される習近平

  • 9

    「季節感」がない中国にバカ騒ぎの季節がやって来る

  • 10

    トランプ「薬価引き下げる」 具体案は示さず、製薬…

  • 1

    トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

  • 2

    マドンナ、トランプに投票した女性たちに「裏切られた」

  • 3

    トランプ氏、ツイッターで中国批判 為替・南シナ海めぐり

  • 4

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年…

  • 5

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結…

  • 6

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 7

    インターポールも陥落、国際機関を囲い込む中国の思惑

  • 8

    トランプ、ボーイングへのエアフォース・ワンの注文…

  • 9

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 10

    トランプが仕掛ける「台湾カード」 中国揺さぶりのも…

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 3

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時に分かる?

  • 4

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気に…

  • 5

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 6

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 7

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

  • 8

    安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指…

  • 9

    「ハン・ソロとレイア姫」の不倫を女優本人が暴露

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!