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TPP妥結の政治的意味、日本とアメリカ
ですが、その裏には「自由貿易」を巡る南北の抜き差しならない対立がありました。南北戦争の直前、農場主などを中心とした南部の経済は「商工業ではなく農業」、「大きな政府ではなく小さな政府」、「競争力がある以上は自由貿易を」という政治エネルギーとなっていました。そして奴隷制の問題は、その「農業における低コスト体質」を支えていたのでした。
これに対して、北部を中心とした商工業の利害としては、「まだ欧州に比べると競争力が十分でない」中で、政府による産業保護や、通商の安全を確保するための安全保障を求めていました。
つまり新興国アメリカが、国際化しつつある経済の中でどう進んでいくのか、その方針が南北で真っ二つに割れてしまったわけです。それが「北部エスタブリッシュメント」対「南部農場主たち」という政治的な対立エネルギーを激しく煽ったのです。
さらに言えば、北部が奴隷制に強硬に反対した背景には、まだ欧州に比べると脆弱であった工業を「保護貿易」で守るためには、「奴隷制という無法により競争力を持ってしまっている」南部の農業経済が「自由貿易を求める」こととは「相容れない」という構造があったわけです。
結果的に北軍が勝利しましたが、その後の「南部の再建(リコンストラクション)」はなかなか進みませんでした。北部が恐怖政治を敷いたという問題もありますが、何よりも「奴隷制という悪しき低コスト構造」が消滅した後の南部経済で、「収益体質を再建する」という根本的な問題が解決しなかったからでした。
このようにアメリカは「自由貿易か保護貿易か」という論点を奴隷制の問題に重ねて内戦までやった国であり、その対立構造は現在にまで続いています。そんな中、このTPPが妥結されたというのは、やはり画期的・歴史的だと思います。
また、各国がギリギリまで利害を主張しつつ、最後はとりあえずの「落とし所」へと持っていきました。多国間の自由で柔軟な交渉により、貿易の公正なルールを決めるというスタイルは、中国に対して「オープンな貿易ルールに従うように」というメッセージを発信できるところが有効だと思います。
各国の批准と発効に関しては、まだ未確定要素も多いですが、とにかくこのメッセージを本当に有効なものとするためにも、環太平洋圏がこの新しい枠組みの中で経済的に繁栄することが大切だと思います。
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