コラム

トランプの「アジア外交」絡みの暴言は無視できない

2015年08月27日(木)11時30分

 もう一つは、アジアの安全保障に関するコスト負担の問題です。こちらは民主党のオバマ大統領が「アジア重視」という外交を宣言してきたことへの反動と考えると、そう簡単には見過ごせません。

 日中関係の改善に時間がかかっている問題にしても、以前のように「民主主義と自由経済」を守るための冷戦の大義があった時代はともかく、「アジア諸国がアジア諸国のカルチャーに従って勝手にナショナリズムの確執」を強めているのに、その安全保障にアメリカのカネが使われているのは「許せない」とかムダだという論理は、一定の説得力があるわけです。

 韓国に対する「クレイジーだ」という絶叫は、例えば「同じ民族の北朝鮮と和解できない」ことと「同じ自由陣営の日本との関係を悪化させて中国に接近している」という中で、アメリカとして「リスクと費用を分担することへの苛立ち」という理解と考えれば合理性はあります。日米安保への「苛立ち」も似ています。

 もちろん、トランプ自身はそこまで深く考えているとも思えませんし、そもそも大統領戦に勝つ可能性も少ないと思います。ですが、こうした「苛立ち」にまったく根拠がないわけではない、つまりアメリカの「保守」の深層心理の中に、アジアの問題には距離を置きたいという孤立主義が出てきた兆候だと考えると、これは無視できないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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