コラム

中国空母が太平洋に──トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化

2016年12月27日(火)15時30分

 中国海軍は、1983年に海軍司令官となった劉華清によって、三段階の発展を指示されている。第一段階は、2000年までに海軍の活動を第一列島線(編集部注:九州-沖縄-台湾-フィリピン)内外まで拡大することであり、第二段階は2020年、第三段階は2050年をターゲットにしている。

 第二段階と第三段階のターゲットが、中国が言う「二つの百年(中国共産党結党100年:2021年、中華人民共和国成立100年:2049年)」と一致していることも、中国の軍備増強が、「偉大な中華民族の復興」に連動していることを示している。

 中国は、既に1980年代前半には、海軍の行動を西太平洋まで拡大することを考えていたのだ。中国海軍発展の第一段階は、約10年遅れで達成され始めた。中国海軍は、水上艦艇の艦隊を、第一列島線を抜けて西太平洋に出し始め、2009年頃から「遠洋航海訓練の常態化」を謳い始めたのだ。その後、2016年になって、長距離爆撃機及び戦闘機が西太平洋まで行動範囲を広げている。

政治的に伝えたいこと

 今回の、空母の西太平洋での行動も、中国海軍発展の大きな戦略の方向性に沿ったものだと言える。しかし、訓練艦である空母を西太平洋に出すことに実質的な軍事プレゼンス展開の意味はない。それでも、実戦に供することのできない空母にファイティング・ポーズをとらせるのは、政治的に伝えたいことがあるという意味だ。

 中国は、米国が中国の経済発展を妨害するのではないかと懸念していたが、それが現実味を帯びてきたと感じている。トランプ氏が米国の次期大統領になるからだ。トランプ氏は、これまでの米国大統領とは異なり、「自由」、「人権」、「民主主義」、「法の支配」等の理想主義的な原理原則を持ち出さない。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

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