最新記事
シリーズ日本再発見

Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ドラマは是枝監督『阿修羅のごとく』で間違いない

“Asura” Is Already the Best New Show of 2025

2025年02月07日(金)13時56分
ジェフリー・バンティング

本作の魅力を生み出しているのは、ほんの一瞬の描写を通して登場人物の生き生きしたイメージをつくり出す、その積み重ねだ。

妹の家へと急ぐ綱子が、近くで咲く花に気を取られる瞬間。床に置きっぱなしにされた時計を、巻子が静かないら立ちとともに元に戻す瞬間。きまりが悪い時の滝子が、髪を耳の後ろになでつけるしぐさ、誰も見ていない時に垣間見える、咲子の虚勢のもろさ──。


本作がただのフィクションではなく、自分たちと同じ世界の物語だと現代の視聴者に感じさせてくれるのは、こうした小さな描写なのだ。

宣伝する気がなさすぎる

なかでもドラマを支えているのは、巻子を演じる尾野の演技だ。母と似たような立場に置かれた巻子の表情は、姉や妹と一緒にいる時のはつらつとした様子から、家族や夫の目の届かない廊下で静かに泣く顔へと、一瞬のうちに変化する。

自分の状況への怒りや苦悩を辛うじて抑えている巻子が見せる表情の豊かさは、テレビドラマ史上まれに見る素晴らしさだ。本来なら大いに称賛されてしかるべき名演技と言っていい。

ところが、是枝ほどの大物監督の作品でありながら、配信開始に際してネットフリックスは視聴者への周知や宣伝を怠った。おかげで本作は、大量のコンテンツの深い海に沈んでいってしまった。ネットフリックスには、こうして世間に知られないままの名作がいくつもある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、シリア首都を空爆 米「戦闘まもなく停止

ビジネス

6月米製造業生産0.1%上昇、高関税措置の影響続く

ワールド

フーシ派向けイラン製武器押収、イエメンの対抗勢力=

ワールド

トランプ氏、FRB議長解任の「計画なし」 解任の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏にも送電開始「驚きの発電法」とは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 5
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 6
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 9
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 10
    「死ぬほど怖かった...」高齢母の「大きな叫び声」を…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中