コラム

『Four Daughters フォー・ドーターズ』はあなたのドキュメンタリー観をきっと揺さぶる

2025年03月22日(土)14時40分
『Four Daughters フォー・ドーターズ』

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<なぜ娘2人はイスラム国の兵士となったのか? 本人と俳優を使って家族の時間を再現する『Four Daughters フォー・ドーターズ』は観ながら混乱するが、同時に稀有な体験になる>

ジャスミン革命の余韻がまだ色濃いチュニジア。16歳の長女ゴフランと15歳の次女ラフマは、ある日唐突に家を出て、過激派組織「イスラム国」(IS)の兵士となった。残された母オルファと三女エヤ、そして四女テイシールは、長女と次女が幸せな家庭を捨てて過激なISに参加した理由が分からない。

映画『Four Daughters フォー・ドーターズ』予告編

何が不満だったのか。何を求めたのか。残された3人と2人は何が違ったのか。この問いに向き合うため、母と娘2人は本作の監督カウテール・ベン・ハニアの提案に応じ、自分たちのかつての日常をドラマとして追体験することを決意する。


こうして撮影が始まる。キャストは母と4人の娘。父は家を出ている。母と三女と四女は自分自身を演じる。いや、「演じる」とは少し違う。定型的なせりふはほとんど与えられていない。ベースは即興だ。長女と次女はいないから、オーディションで選ばれた俳優が演じる。オルファの夫や警察官など複数の男性を演じるのは、チュニジアの著名な俳優マージ・マストゥーラ。

映画は選ばれた長女と次女、そして実際の母と三女と四女の初対面の挨拶から始まる。長女役と次女役の俳優は実際のゴフランとラフマに似ていると、オルファはうれしそうだ。

ただし、娘2人を失ったオルファの心の傷は深い。家族の争いのシーンを再現することに耐えられない。だから時に母役をプロの俳優が務める。中東を代表する女優で、最近ではネットフリックス制作のドラマにも出演しているヘンド・サブリだ。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米司法省、クックFRB理事の捜査開始 住宅ローン不

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米7月の貿易赤字、32.5%増の783億ドル 輸入

ビジネス

段階的な利下げが正当、経済が予想通り推移なら=NY
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story