コラム

スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦

2024年01月30日(火)17時52分

それでもスターバックスが長年営業を続けたかいあって、中国でもコーヒーを飲む人たちが徐々に増え、図1にみるように店舗数がしだいに増えていった。とくに、2017年から2018年の1年間に店舗数が一気に拡大して3521店舗になってから、ものすごい勢いで店舗数が伸びている。2023年9月末にはスターバックスの中国での店舗数は6806店舗に達し、スターバックスにとって中国がアメリカに次いで世界で2番目に大きな市場となった。アメリカがスターバックスの世界での純収入の73.4パーセントを占め、中国は8.6パーセントでそれに次いでいる。

ちなみに、スターバックスは日本でも店舗数の増加が続いていて、2023年9月末は1885店舗で、ドトールコーヒーの1276店舗にだいぶ差をつけている(『東洋経済オンライン』2023年12月5日)。だが、図1にみるように、中国の店舗数の伸びのほうがはるかに急ピッチである。

795316b92fc766b0181f6fef074f03fa-1.png

図1 スターバックスの店舗数

スタバの尻に火をつけた中華系カフェチェーン

スターバックスが2017年から2018年にかけて急激に店舗数を増やしたのはなぜだろうか。もちろん中国でカフェ文化が浸透してきたことが背景にあるだろうが、もう1つのきっかけとして、2017年に中国で有力なライバルが出現したことが挙げられる。それは瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)という中華系のカフェチェーンである。

ラッキンは2017年に創業すると、半年後に400店舗、1年後には2000店舗と猛烈な勢いで店舗数を増やした。2019年末には店舗数を4500店舗まで増やし、スターバックスを超えた。ラッキンは2019年5月にはアメリカのナスダックに株式を上場し、市場で資金を調達して快進撃をさらに続けるものだと思われた。

ところが、2020年に入ると突然事態が暗転した。アメリカの投資会社がラッキンの売り上げ状況について調査した結果、売上額が大幅に水増しされていることを発見したのだ。ラッキンは同年4月になって指摘を認め、2019年4~12月に22億元(330億円)の水増しがあったと発表した(『日本経済新聞』2020年4月4日、7月19日)。水増しした額はその時期の売上額の76パーセントにも及んだというからすさまじい粉飾である(『21世紀経済報道』2020年4月13日)。

ラッキンコーヒーの成功と失敗

ラッキンの経営陣は、投資家たちの目をごまかしてでもとにかく資金を集めて投資さえすれば、カフェチェーンがきっと成功すると確信していたのだろう。スターバックスの長年の努力によりカフェ文化が中国に根づき始めていたし、ラッキンはいくつかのビジネス上の革新を導入していた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story