コラム

中国は38分で配布完了!? コロナ給付金支払いに見る彼我の差

2020年06月19日(金)14時50分

多くの都市では消費券は外食店や小売店、文化体育施設などでの支払に使えるが、ガソリン代として使える消費券を出した都市もある。消費券として配布された金額はどの都市も少額で、平均で人口一人当たり19.6元(300円)にすぎなかった。

中国では今年はかなりの財政赤字になっても景気を回復させる方針なので、今後大型の景気対策が出てくる可能性はあるが、目下のところ国民に直接届く救済策としてはこの消費券のみで、日本に比べるときわめて小粒の刺激策にとどまっている。

一方、日本では国民1人10万円の特別定額給付金を支給することが4月末に国会で決まった。そのために用意された予算は12兆8803億円で、中国全土で消費券として配られた金額より2桁も多い。

日本と中国の経済対策を比較して、まず目につくのが金額の違いである。中国の各都市の中で最も大盤振る舞いをした杭州市でさえ、市民が地方政府から受け取る補助額は、仮に消費券をゲットしたとしても一件あたり526円にすぎず、日本の10万円とは雲泥の差がある。


日本の10万円は貯蓄されかねない

また、補助の出し方に、その性格の違いがはっきり現れている。中国の消費券は期限内に支出しないと無効になってしまうので、消費を直接に喚起することが狙いだということが明らかである。

一方、日本の特別定額給付金は消費せずにそのまま貯金しておくことができるので、コロナ禍で減った所得を補うことが主な目的だと言える。これがどれほど消費を喚起する効果を持つかは今後の検証を待たなければならないが、1999年の「地域振興券」、2009年の「定額給付金」の経済効果がそれぞれ事業規模の3割程度だったことを考えると、おそらく今回もその程度の効果に留まるとみられる。

日本の給付金にしろ、中国の消費券にしろ、それを普段も買っているような食品や日用品の購入に使い、浮いたお金をすべて貯蓄の積み増しに回したとすれば、真水での経済効果はゼロということになる。また、給付金によって一時的に消費が喚起されたとしても、その後で消費が落ち込むとしたら、単に需要を先食いしただけである。

中国の消費券は、先食いでもいいからとにかく当面の消費を喚起して経済を回復の軌道に乗せることを狙っている。一方、日本の給付金は、収入を失い、貯金も底をついたような人にとってはまさしく干天の慈雨となって消費の増加につながるだろうが、給料もそこそこ出ているし、貯金もある人に対しては消費を一時的に喚起する効果さえないかもしれない。本当は、前者のような人だけに給付できれば良かったのだが、ターゲットを絞るのはなかなか難しい。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story