コラム

日本の電子マネーが束になってもかなわない、中国スマホ・マネーの規模と利便性

2017年09月29日(金)08時10分

その後「おサイフケータイ」はどうなっただろうか。2015年秋に、東大で1、2年生向けの授業をした際に、受講生に携帯電話・スマホの利用状況に関するアンケートをした。そのなかで「おサイフケータイ」の使用頻度を尋ねたが、122名の回答者のうち「使わない」と答えたのが117名(96%)、「ほぼ毎日使う」はたった1名だった。いま北京大学の学生を対象に同様の調査をしたら、全員がスマホ・マネーを「ほぼ毎日使う」と回答するだろう。

「おサイフケータイ」のサービスが始まって10年余りを経たが、使っている人はごくわずか。どう考えても失敗である。ところが、講演でそういう話をすると、ムキになって反論してくる人がいる。曰く「アップルのiPhoneがおサイフケータイに対応していないからみんな使わないのではないですか?」

たしかにiPhone 6までは非接触型ICカード(フェリカ)を内蔵していなかったからおサイフケータイが使えなかった。だが、iPhoneが日本で急速に広まったのは2010年で、当時日本の携帯電話にはたいがいおサイフケータイの機能が備わっていた。もしおサイフケータイが日本の携帯電話ユーザーにとって必要不可欠なものであればアップルだってフェリカを搭載したはずだし、消費者もおサイフケータイの機能がないiPhoneに乗り換えなかったはずだ。だが、実際には多くの人がフェリカ入りの携帯電話を捨てて、iPhoneを選んだのである。

使えるのに使わない

さて2016年9月に発売されたiPhone 7にはついにフェリカが搭載された。ドコモはアップルが「おサイフケータイ」という商標を使わず、"Apple Pay"という商標を使うことを認めた。そこまで譲歩してでもiPhoneにフェリカを搭載してほしかったのだろう。では、おサイフケータイは復活しただろうか。ときどき駅の改札にスマホをタッチしている人を見かけるようになったので、おサイフケータイ改めApple Payを使っている人は増えているように見える。

だが、日本銀行が2016年11~12月に20歳以上の日本国民を対象に行った調査によればおサイフケータイを使っている人は「年に数回使う」という人まで含めてもたった6%だった(「生活意識に関するアンケート調査」第68回)。しかも、42%はおサイフケータイが使える携帯電話・スマホを持っているが使っていないと答えている。iPhoneではおサイフケータイが使えないから使わないのではなく、使えても使わないのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー、EV課税拡大を計画 米テスラ大衆向けモ

ビジネス

アングル:関西の電鉄・建設株が急伸、自民と協議入り

ビジネス

EUとスペイン、トランプ氏の関税警告を一蹴 防衛費

ビジネス

英、ロシア2大石油会社に制裁 「影の船団」標的
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story