コラム

シャープを危機から救うのは誰か

2016年02月22日(月)17時00分

優れた製品開発力をもちながら経営判断でつまづいたシャープ Yuya Shino- REUTERS

 いま私の目の前に2台のスマホがあります。一台は3年ほど前に買ったアップルのiPhone5、もう一台はシャープのAQUOS Phone IS14SH。

 iPhoneについては説明の必要はないでしょうから、IS14SHについてのみ少し説明しておきます。タテヨコの長さはiPhone5と同じくらい、画面は若干小さめです。iPhoneと同様にタッチパネルで操作できます。大きな特徴は下半分をスライドさせるとテンキーがあらわれ、テンキーでも操作できることです。ガラケー感覚でスマホを使えるなかなかの優れものです。

 重要なことを書き落としました。iPhoneの方は何万円かを出して買ったのですが、AQUOS Phoneの方はiPhoneを買った時に、auの販売店がオマケとしてくれたのです。なぜ頼みもしないのに高価なスマホをくれるのですか、売れ残って処分に困っているからですか、と店員さんに聞いたら、「まあ、そんなところです」との答えでした。

支援額だけの問題ではない

 このスマホを開発するために、シャープのエンジニアたちが知恵を絞り、スムーズにテンキーがスライドするように試作を繰り返しただろうに、それがオマケとして扱われるとは! シャープの社員たちがこのスマホを生み出すために流した汗と涙を思って私は悲しくなりました。

marukawa160222-3.jpg

スライド式テンキーを備えたAQUOS Phone(左)とiPhone

 奇しくもこの2台のスマホを作った2社がいま経済ニュースを賑わせています。すなわち、一方は2015年度に2223億円の巨額赤字を記録し、自己資本比率が1.5%にまで落ちて、債務超過目前の危機にあるシャープ。他方はiPhoneを製造している台湾の鴻海(ホンハイ)で、シャープに7000億円の支援を行って買収すると名乗りを上げています。

【参考記事】ついにサムスンを切ったアップルの勝算は?

 シャープの再建に対しては経済産業省系の産業革新機構も3000億円を出資する案を提示しています。産業革新機構の案はシャープ本体への出資は3000億円に留まるものの、金融機関に対する債務の株式への切り替え(デット・エクイティ・スワップ)などを加えれば総額1兆円以上を支援する構想だと報道されています。

 目下、シャープの経営陣は鴻海と産業革新機構のどちらの提案を受けるか迷っているようです。もしシャープの経営陣が単にどちらの支援額が多いかという金銭勘定だけで判断するとしたら、大きな間違いを犯すと思います。なぜなら、鴻海を選ぶのと産業革新機構を選ぶのとでは、経営が統合された後に期待できるシナジーがまるで異なるからです。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story