コラム

「李克強指数」が使えないわけ

2015年10月16日(金)17時36分

 民間企業に生産額、利益額、生産量など尋ねると、相手が口を濁すという経験はこの時だけではありません。今はスマホで名を馳せている某社を訪問した時など、従業員数を尋ねても「数千人」と答えるばかりでした。この会社は今でもホームページ上に会社の売上だとか従業員数といったデータをまったく掲載しておりません。

 中国の国有銀行は民間企業に余り融資してくれないし、融資する場合も融資先の経営データをみるのではなく接待やリベートなどで決めると言いますから、民間企業には経営業績をよく見せるインセンティブはないのです。税金のことを考えると経営業績をむしろ悪く見せたほうが得だということになります。そんな民間企業が統計調査にだけは正直に経営状況を報告するとは考えにくいのです。

 そんなわけで民間企業の真の実力は中国のGDP統計のなかで十分とらえられていないのではないかと私は推測しています。まして、国有重工業・鉱業の状況しか反映していない「李克強指数」など見ていたのでは中国経済の現状は把握できないと思うのです。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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