コラム

ISISによる自殺攻撃の「産業化」進む バルセロナ暴走テロ

2017年08月18日(金)21時30分

ウィンター上級研究員は15年12月から16年11月にかけ、ISが関与した923件の自殺攻撃を詳しく分析した結果、昨年からISの自殺攻撃が急増していることが分かった。

当初、自殺攻撃は費用対効果が絶大で、相手に与える心理的恐怖が非常に大きいという戦略面からISに採用された。しかし昨年以降は、支配領域を失うなどの後退や有志連合による軍事的圧力を和らげるという戦術的な動機から多用されるようになった。

ISは潜在的テロリストに「殉教」するよう巧みに洗脳し、持続的に自殺攻撃を軍事活用するのに成功している。自殺攻撃はランダムに行われているのではではなく、注意深く計算し、精密にコーディネートして実行に移されているという。

シリアやイラクなどの戦場では自爆テロが使われるが、欧州では手軽に大きな打撃を与えられる車を利用した無差別テロが激増している。昨年7月、フランス南部ニースで86人を殺害する「戦果」を上げたことが大きな転換点となった。

ISのイデオロギーはスンニ派の過激思想ジハーディ・サラフィズムで、暴力で欧米支配を排除し、その後にイスラム教の教えに忠実なカリフ制国家の樹立を目指している。ジハーディ・サラフィズムのシンパは世界に広がっている。

ISISの指令は今も世界に

イラクやシリアでの勢力が衰えたとしても、自殺攻撃を産業化したISは欧米のテロリスト予備軍に有形無形の影響力を及ぼし続けるだろう。

世界金融危機をきっかけにグローバル資本主義はその限界を露呈した。格差は広がり、失業者や単純労働者は痛めつけられている。ストレスのはけ口は排外主義となって、マイノリティーのイスラム系移民に向けられている。

アメリカのドナルド・トランプ大統領の登場やイギリスの欧州連合(EU)離脱で白人中心のノスタルジーとナショナリズムが高まりを見せる中、その反動としてイスラム系移民の過激化も不気味な広がりを見せている。

イギリスの情報局保安部(MI5)前長官ジョナサン・エヴァンスは「私たちは少なくとも20年、いや30年はテロの脅威に直面する」と英BBC放送のラジオ番組に語っているのだが。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減との報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を来年決定も─USTR代

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story