コラム

歴代大統領の不正と異なる「朴槿恵逮捕」の意味

2017年04月03日(月)14時00分

News1 via REUTERS

<朴槿恵(パク・クネ)前大統領が収賄容疑などで検察に逮捕され、セウォル号が引き上げられた3月31日は、韓国社会にとって象徴的な大きな意味を持つものになるだろう>

韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領が3月31日未明、収賄容疑などで検察に逮捕された。韓国の歴代大統領の中で逮捕されたのはこれで3人目。韓国では政権末期になると、本人や身内の不正問題が浮上するのが常で、今回の件も日本では「またか」といった反応が少なくない。

しかし、朴槿恵の逮捕はこれまでの大統領の不正問題とは違った意味合いを持っているように思える。

朴槿恵とその父親である朴正煕(パク・チョンヒ)は、韓国の高齢者層にとって「捨てられないお守り」のようなものだからだ。

朴槿恵を支持する人々は主に保守層、そして高齢者たちだ。反対デモを起こすような過激な人々ばかりではない。朴槿恵が大統領に当選するまでには、もちろんごく平凡な人々の支持が存在した。

「若くして両親を失ったのに......」

韓国の保守の思想は、一言で反共産主義・反北朝鮮というマインドだと言えよう。朴槿恵やそれを支持する人々にこうした心象があるのは確かだ。が、しかしそれだけが彼女への訴求力だったとは思えない。

私と同世代の知人の中で保守政党を支持してはいても、朴槿恵という政治家を強く推す人は見たことがない。実際、2012年の大統領選で20~40代の得票率は対抗馬の文在寅のほうが高かった。

一方で「親が朴槿恵に投票した」という話はよく聞く。

朴槿恵の地元である慶尚北道・大邱出身で放送局記者をしている知人の父親は、朴槿恵が初めて議員選挙に出たときから、彼女に一票投じ続けてきた。
そして彼女を支持してきた理由について、こう話しているという。

「遊説の場で握手したらとても手が暖かくてね。20代で両親を暗殺されたのに、国のために立ち上がって......、女性が一人でとてもけなげに見えたよ」

別の週刊誌記者をしている知人によると、彼の母親は朴槿恵の政策が批判的に報じられる度に「気の毒だ」「かわいそうだ」と言いながら、やはり「若くして両親を失ったのに......」と話すという。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story