コラム

ミスド「500店舗調理廃止」は外食産業シェア化の幕開け

2017年04月04日(火)18時18分

写真はイメージ-iStock.

ドーナツ専門店「ミスタードーナツ」が事業構造の転換を進めている。背景にあるのは慢性的な人手不足と消費の落ち込みである。近隣店舗で商品をシェアするミスドの新しい取り組みは、コンパクト化する消費社会の未来を暗示しているのかもしれない。

売上高が2~3割減ることも想定

ミスドはこれまで各店舗にキッチンを備え、原則として店内でドーナツを作っていた。キッチンがあるといっても、オーダーを受けてから揚げるわけではなく、商品によっては店頭に出すまで時間をおく必要がある。このため、すべての商品が作りたてというわけではなかったが、店内にキッチンが存在することは「手作り感」を演出するという意味で、大きな効果があったことは間違いないだろう。

だが同社は、昨年から事業構造の大規模な転換を進めており、店舗の装備についても見直しを行っている。今後はキッチンなしの店舗を増やし、キッチンありとキッチンなしの店舗を複合的に出店していく方針だ。キッチンなしの店舗は全体の4割にあたる約500店舗になる見込み。キッチンありの店舗から商品を配送するとともに、持ち帰り専門店を増やすことで店舗の総コストを削減する。

【参考記事】日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

キッチンなしの店舗の場合、調理の必要がないことから未経験の店員でも配置が可能となり、人手不足にも柔軟に対応することができるという。

今後は、キッチンなしとキッチンありの店を複合的に配置するので、結果的に同社はドミナント戦略的な出店計画となる。小売や外食業界では、狭い地域に店舗を集中させるやり方を「ドミナント戦略」と呼んでいるが、通常、この方策はシェアの拡大に用いられることが多い。セブンイレブンが代表的な例だが、狭いエリアに集中的に出店することで、競合から顧客を丸ごと奪うという考え方である。

だが今回のミスドにおけるドミナント戦略は、市場縮小に対応し、店舗の総コストを引き下げるという目的で実施される。同社は今後の市場動向についてかなり厳しく見ており、現状から2~3割ほど売上高が減少しても採算が合う事業構造を目指すという。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏独首脳、米国のウクライナ和平案に強い懐疑感 「領

ビジネス

26年相場、AIの市場けん引続くが波乱も=ブラック

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story