コラム

マイノリティーは一致団結して同じ意見を唱えよ?

2022年07月22日(金)20時05分
リシ・スナク前外務相(左)とエリザベス・トラス外相

英保守党党首選の決選投票にはインド系のスナク前外務相(左)とトラス外相の2人が進むことに FROM LEFT:Henry Nicholls-REUTERS, Toby Melville-REUTERS

<ジョンソン英首相辞任表明に伴う英保守党党首選にマイノリティー候補が乱立。非白人にとっての快挙かと思いきや、なぜか非白人が白人顔負けの保守な見解を示すと仲間内から裏切り者とみなされる傾向が>

思慮深い人が何かを気に病んでしょうがない、というときには、何かしら胸をムカムカさせるような問題が存在しているに違いない。何かがあまりに気に食わなくて不満をぶちまけたくなっているとか......。僕は一度も「楽天的」と言われたことがないし、個人的には楽天家は合理的思考の放棄を意味する(「世界は地獄に向かってまっしぐらかもしれないが、なんで私がそれを気に病む必要がある?」)から、われながら楽天的ではないな、と思う。

まさに今、僕をいら立たせている問題は、人種的マイノリティーの人々はみんな同様の「正しい」世界観を共有しなければならず、そうしない者は誰でもある種の裏切り者と見なす、との暗黙の了解についてだ。なぜ彼らは、白人のように、個人個人の見解を持つことを許されないのだろう?

ある人は税金を上げてもっと福祉に費やすべきだと考えるかもしれない。あるいは税金を下げて労働者の可処分所得を増やすべきだという人もいるかもしれない。それはどちらも結構な話だ。リソースをもっと警察につぎ込んでほしいという人もいれば、NHSに使ってほしいと思う人もいるし、電車運賃の値下げを実現してほしいという人もいる......。全ては個々の意見の問題だ。でもどういうわけか、概してこうした問題に「保守的」な意見を持つ「非白人」の人々の場合は、そうした意見を持つことを許されないようなのだ。

黒人が持てない「自由」を白人は大抵の場合は持てることに、僕は困惑している。白人政治家が、BLMの主張に異を唱えて批判されることだってあるだろう。白人の僕は、BLMの議論が独善的で過激主義だと自由に発言することができる(批判されることを承知の上で、ではあるが)。

でももし、非白人の誰かがそんな意見を持てば(実際にはそう思っている非白人だってたくさんいる)、ずっとひどい結果が待っている。彼らは自分たちの人種を裏切ったと非難されるだろう。そんな意見を持つ非白人が、時には白人「リベラル」から批判される場合さえある。黒人が考えるべきことを白人が上から目線で押しつけるなんて、これ以上のあからさまな人種差別はないじゃないか。

アメリカでは、「アンクル・トム」という有害な用語がある。そしてイギリスでは、非白人かつ保守派の人々は時に「ココナツ」と言われる。「中身は白い」という意味だ。これも同じく腹立たしい。あなたは自分を黒人だと思っているかもしれないが、私たち黒人の仲間が望むような考え方をしないのだからあなたは実際には白人ですね、というわけだ。これは、人々が個々の政治的信条を持つ権利を奪うだけでなく、彼らの人種的アイデンティティーさえ否定している。

仲間の集団と異なる政治観は総攻撃される

とても軽いレベルだが、僕にもこの手の経験がある。僕はアイルランド系移民で労働者階級の一家の出身で、それでいて僕は保守的な政治観を持っている。そのため折に触れ、僕はこの階級の裏切り者だと言われてきた。さらに頻繁に、単なるばか者だと言われもした。時には、あまりにばかだから選挙権を剥奪されるべき、とまで言われた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:中国の米国産大豆購入、国内供給過剰で再開は期

ビジネス

SBI新生銀、12月17日上場 時価総額1.29兆

ビジネス

レゾナック、1―9月期純利益は90%減 通期見通し

ビジネス

三越伊勢丹HD、通期純利益予想を上方修正 過去最高
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story