コラム

移民に本当に寛容なのはイギリスかドイツか

2019年11月13日(水)16時20分

39人の遺体の発見は世界に衝撃を与えた(10月23日) Hannah Mckay-REUTERS

<イギリスでトラックのコンテナから39人の遺体がみつかった事件は世界を震撼させた。移民が命懸けで不法入国する必要がないよう受け入れを拡大せよとの声が上がるが、それは彼らのためになるのか>

イギリスに不法に入国しようとした39人がトラックのコンテナから遺体で発見され、僕の地元である英南東部エセックス州が最近、世界的なニュースになった。地域、そして国中がショックと悲しみに包まれた。

厳密に何が起きたか推測で話すべきではないが、状況から分かるのは、彼らがイギリスに渡るため密航業者に大金を払った経済移民だったということだ。だとしたら、この事件は陰惨なパターンに当てはまる。2000年には58人の中国人が、ドーバー港のトラックのコンテナの中から遺体でみつかった。2004年にはランカシャー州モアカム湾で低賃金で貝を採っていた中国人23人が、高潮にのまれて亡くなった。

こうした事件が起こるたび集団的ショックが広がり、彼らが不法入国や違法労働で命の危険を冒さなくていいようにイギリスはもっと移民を受け入れるべきだ、という声が高まる。

だが、貧しい国々からの何百万人もの人々に国境を開かないことは、イギリスにしてみれば単なる自己中とはちょっと違う。イギリスは、貧困国の国民が自国に安全にとどまり、自国で経済的に豊かになれるために貧しい国々を支援する目的で、かなりの財源を投入して一貫した政策の数々を取っているのだ。

まず、地球温暖化と移民との関連性は、深刻化する問題として認識されている。環境破壊は特にサハラ以南のアフリカなど貧しい国々の経済状況を悪化させるだけでなく、資源をめぐる紛争のリスクも高める。そのどちらも移民が増加することを意味する(経済移民も難民もだ)。

こうした理由からイギリスはCO2削減で世界の先頭に立ち、主要経済国としては初めて、温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすることを法的義務とした新法案を可決した。それまで目標にしていた「1990年比で80%削減」の上をいくものだが、イギリスは人口急増にもかかわらずこれを達成しようとしている(イギリスの人口は2050年までに、1990年より2000万人増の7700万人に達する見込みだ)。この政策によって、イギリスはGDPの1~2%を犠牲にするだろうと試算されている。

第2にイギリスは、ODA拠出額を国民総所得(GNI)比0.7%とした国連目標を達成しているごくわずかな国の1つだ。こちらの政策もまた、法的に義務付けられている(先進7カ国で初めて、2015年に法制化された)。デンマークやオランダ、スウェーデンはより多くの比率を拠出しているが、イギリスほどの経済規模で達成している国はほかにない。この援助の大いなる受益者には、シリアやアフガニスタン、エチオピアなど戦争で荒廃、困窮した国々も含まれており、インフラや経済、治安の再建に生かされている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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