コラム

英メディアを離脱支持に回らせた「既得権益」

2016年06月29日(水)18時40分

Neil Hall-REUTERS

<EUはイギリスの軽減税率(0%)を問題視していた。国民投票で新聞業界はなぜ離脱を煽ったか? 消費税・付加価値税の観点からブレグジットを見れば、移民問題などとは別の側面が見えてくる>

 懇意にしている在英の小野昌弘氏(インペリアルカレッジロンドン上席講師、医師・免疫学者)からまもなく来日予定の英ロイヤルバレエ団が、日本でのアウトリーチ活動を所望しているのにもかかわらず、その場を探すのに苦慮しているとの一報が平素お互いの連絡用にと利用しているチャットに入ってきたのが数週間前。

 アウトリーチ活動とはなんぞや? と思われる方も多いはず。直訳すれば「手を伸ばす」となりますが、地域社会への奉仕や支援活動を生活の現場に出向いて行うものです。バレエのすそ野を広げる=将来の観客を増やす意図もありますが、それ以前に先立つ理念として、様々な理由から芸術を体験する機会のない人たちに、ダンスやバレエへのアクセスがない子供たちにその機会を提供したい、ダンスを見て・参加して・楽しんでほしいとの public engagement への純粋な思いがあるのもまた事実。単なる集客ではなく、多角的、長期的展望に基づいているのは若いダンサーの発掘とその進路の確立、地域から国家レベルまで幅広いダンス教育の相互関係をロイヤルバレエ団が標榜していることからも明らかです。

 ということで今回、地元の支援学校を紹介し、4日間の彼らのアウトリーチ活動に同行いたしました。通訳も兼務しておりましたが、生徒たちとバレエ団の間に言葉は不要、宝物のようなキラキラした瞬間を何度も垣間見られたのはまさに役得。詳細をご報告する機会があればと思いますが、今回のテーマは英国つながりからEU離脱となった英国国民投票について、にいたします。

 数年前までソリストとして大活躍し、現在は教育部門のトップとして日本でのアウトリーチ活動を中心的になって行ってくれた同志デイビッド(David Pickering)は期日前投票をしてきたとのことでしたが、投票結果を受けての第一声は「disaster(大惨事)」。

「EUからの予算および人の流れという実質的ダメージも大きいのですが、EUに象徴されていた知識人・グローバル高技能労働者・高学歴中間層の思想的・社会的敗北、といってもよいのだと思います」というのが小野氏談。

【参考記事】<論点整理>英国EU離脱決定後の世界

 来日公演直前、ロイヤルバレエ団はその最高位であるプリンシパルに平野亮一氏と高田茜氏(茜さんは日本での唯一のオフを支援学校でのアウトリーチ活動に費やしてくれました)を昇格させたニュースがありましたが、バレエ団に所属するダンサーはまさに多国籍。その中で切磋琢磨し、最高位まで登りつめた彼らは本当に素晴らしいと思います。ショービジネスが関わるだけに様々な思惑が絡んでくることもあるでしょうが、そうした次元の話とは別に、ロイヤルバレエ団、そしてバレエ団の所属するロイヤルオペラハウスが本当の意味で多様性を尊重している証左でもありましょう。その所在地ロンドンは今回の国民投票でEU残留が大勢を占めた地域でもあります。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ホルムズ海峡の航行状況注視 イラン作戦終了後ガ

ワールド

バンス米副大統領、イラン安保協議に政権当初から参加

ワールド

ロ、イランへの情報提供巡り米を「脅迫」 ウ大統領が

ワールド

イラン外相、米国との協議実施を否定 交戦終結案検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story