コラム

NATOの終わりの始まり? トランプ政権は欧州を「敵」認定して分断しようとしているのか

2026年01月20日(火)15時25分

エマニュエル・マクロン仏大統領は、アメリカが新たな関税を導入した場合、EUの「反強制措置」の発動を求めると、大統領側近が明らかにした。これは2023年にEUが中国を念頭に導入した強力な貿易手段だ。ただし一度も使われたことがなく、多くの疑問があるのだが。一方でドイツは、グリーンランドに送った15人のドイツ軍人を、偵察任務は完了したとして引き上げた。

EUは「今年は中間選挙もあるし、なんとか交渉でやり過ごす」のか、「EUを解体しようとする相手に、強い断固たる姿勢を見せて立ち向かう」のか、迷うだろう。もともとトランプ政権は、定まった戦略で一致団結しているとは感じられないが、グリーンランドは「ドンロー主義(西半球主義)」の対象となるだけに、一層判断に困る。なにせ、グリーンランドの首都ヌークは、コペンハーゲンよりもニューヨークのほうが距離が近いのだ。

NATOの終わりの始まり?

しかし、どういう結果になるにせよ、中長期的に見た場合、経済戦争だけでは終わらないだろう。NATOは終焉を迎え始めたと感じさせる。

一番失われたのは信用と信頼である。18日、米テキサス州選出の共和党議員マイケル・マコールは、米ABCのインタビューで「もし軍事的にこの領土(グリーンランド)を侵略すると決定した場合、それは(集団安全保障を定める)NATO条約第5条を覆すことになり、実質的にNATO自体との戦争を開始することになる。その結果、私たちが知っているようなNATOは廃止されることになるだろう」と警告した。

アメリカが信頼できない時代が、欧州にはやってきてしまった。まさかと信じたい気持ちは募るが、日本にも同じ問いをせずにはいられない。「明日」とは言わないまでも、「あさっては我が身」くらいには考えて、日本は一層の多極的な外交努力を行う必要があるのではないだろうか。

【関連記事】
戦況・外交ともにロシア有利...トランプ外交ではウクライナ和平は厳しい理由
【ウクライナ大統領選】なぜ今「前倒し」? 世論は慎重、支持は僅差でもゼレンスキーが動いたワケ

ニューズウィーク日本版 トランプのイラン攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月10号(3月3日発売)は「トランプのイラン攻撃」特集。核・ミサイル開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。アメリカとイランの全面戦争は始まるのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 7
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 10
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story