ニュース速報
ワールド

焦点:「力の行使」ためらわぬトランプ氏、戦後秩序は崩壊の危機

2026年01月15日(木)13時06分

写真はトランプ米大統領。1月13日、米メリーランド州アンドリュース基地で撮影。REUTERS/Evelyn Hockstein

Matt ‍Spetalnick John Geddie Antoni Slodkowski

[ワシントン/東京/ロンドン/北京/メキシコ市 15日 ロイター] - 2期目就任から間‌もなく1年を迎えるのを前に、トランプ米大統領は、第二次世界大戦の廃墟から米国の尽力で築き上げたルールに基づく世界秩序を破壊する行為を繰り返している。

ベネズエラのマドゥロ大統領を政権の座から追放して同国の石油資源を掌握したほか、他の中南米諸国に同様の軍事作戦を行うと脅し、武力を使ってでもデンマーク自治領グリーンランドを併合したいとの意向を明言、さらに‌西半球を超えてイランへの再攻撃まで警告した。

その影響で世界は混乱​に陥り、米国の同盟国と敵対国は等しく、変転する地政学的な現実への対応に苦慮しているように見える。多くの国はトランプ氏が次にどう動くか、こうした変化が一時的かそれとも持続的か、また将来はより伝統的な米国の大統領が元通りにしてくれるのか、読めない状況にある。

オバマ政権の外交政策顧問を務め、現在はグローバル・シチュエーション・ルーム代表のブレット・ブルーエン氏は「トランプ氏が威勢よく政権に復帰するというのは衆目の一致した見方だった。しかし長年国際的な安定と安全を支えてきたさまざまな柱を押し倒す強引なややり方が、驚くべきスピードで、しかも混乱をもたらすペースで進んでいる」と指摘した。

<ドンロー主義>

昨年6月のイラン核施‌設空爆や、今年初めのベネズエラ攻撃でトランプ氏が示したのはむき出しの力の行使への志向だ。

大統領選では新たなる軍事的関与を避ける「米国第一主義」を掲げていたトランプ氏だが、他国へのさらなる介入の可能性も示唆し、特に西半球で米国の覇権を回復すると約束している。

こうした世界秩序を揺るがすトランプ氏の姿勢をどう評価するのか、ロイターは米政府の高官や元高官、外交官、ワシントンや世界各地の専門家ら十数人に話を聞いた。

トランプ氏は、国際社会の大半で時代遅れとして退けられてきた世界観、つまり大国による勢力圏の分割という考えを復活させつつある。

そうした着想の源は、西半球における米国の優越的地位を唱えた19世紀のモンロー主義で、トランプ氏はこれを「ドンロー主義」として練り直した。

複数の専門家は、この考えは米国の同盟諸国を不安にさせているばかりか、ウクライナとの戦争を続けるロシアや、台湾侵攻を狙う中国に利する恐れがあるとみている。

今危機にさらされているのは、自由貿易や法の支配、領土の一体性尊重に依拠した世界秩序だ。この仕組みは過去80年にわたって時折揺り戻しを生じさせながらも、おおむね米国主導の下で世界的な戦争を回避する役割を果たしてきた。

一方ミラー大統領次席補佐官は5日のCNNテレビで「われわれは強さや力が支配する現実世界に生きている」と語り、いみじくもトランプ政権の世界観を端的に示してくれた。

​ロシアからウクライナを防衛するという面で既にトランプ氏の積極的関与を疑っていた欧州諸国は最近、同氏がグリーンランド併合を狙っていることを受けて、より⁠公然と異を唱え始めた。

ドイツのシュタインマイヤー大統領は先週、米国を「さまざまな価値が崩壊している」と非難し、国際秩序が「盗人の巣窟」へと崩れ落ちていくのを世界が放置してはならないと訴え‍た。

トランプ氏は9日、グリーンランドをロシアないし中国が占領するのを防ぐために米国が保有する必要があると述べた。しかしデンマークのフレデリクセン首相は、米国がグリーンランド保有に動けば、大西洋を挟んだ同盟関係は幕を閉じると警告した。

<同盟諸国の不安>

米国の一部同盟諸国は、一貫性を欠くトランプ氏の政策から身を守るための措置を講じ始めていた。欧州各国が自前の防衛産業強化に乗り出したのはその一例だ。

アジアの同盟国にも不安が広がっている。日本の自民党の小野寺五典安全保障調査会長はX(旧ツイッター)への投稿で、米国によるベネズエラ攻撃は「力による現状変更」の明確な事例だと記した。

韓国でも野党「祖国革新党」所属の国会議員がトランプ氏のベネズエラにおける行動について「強者が弱者に対して‍武力を行使できるというパンドラの箱を開くことになる」と懸念を示した。

ただ同盟諸国政府の大半は、ベネズエラ問題についてトランプ氏の反発を恐れ、総じて控え目の反応にとどまっ‍ている面がある‌。

ある英政府高官は「あからさまな形でトランプ氏を叱責しても、われわれの目的達成にとってプラスにならない」と明かした。

メキシコの左派政権は、米国によるマ‍ドゥロ氏追放をいち早く批判した。それでも米国との利害関係が大きいので、政府高官の1人は「武力行使への非難以上には踏み込まない」と述べた。

<新たな帝国主義>

中南米でトランプ氏が打ち出した「新たな帝国主義」を擁護する人々は、とりわけ中国の経済的・外交的影響力がこの地域に広がっている点を考えれば、むしろもっと前に行動すべきだったと主張する。

ホワイトハウスのある高官は、特に米国に違法麻薬や移民を送り込んだと非難してきたマドゥロ氏を排除することにより、トランプ氏が「米国の影響力を適切に復活させた」と説明した。

米シンクタンク、アトランティック・カウンシル上級研究員で、第1次トランプ政権の外交政策顧問だったアレクサンダー・グレイ氏は「トランプ政権のベネズエラでの行動は世界を驚かせ、中国とロシア、キューバ、⁠イランといった米国のライバルに強いメッセージを送ったが、これは米国の中核的利益を西半球全体で長期的かつより包括的に再検討するための出発点に過ぎない」と分析した。

とはいえトランプ氏のそうした姿勢は米国にとってリスクをはらんでいる。

例えば中南米の主要国の1つ、ブラジルはトランプ政権への圧力をかわす手段として中国へより接近する可能性がある⁠、と複数の専門家は予想する。

米国の同盟諸国の間では、トランプ氏がマドゥロ氏を排除した動機にベネズエラの‍石油があった点を巡る心配が最も大きい。

トランプ政権は、ベネズエラに残るマドゥロ氏の忠実な支持者は当面権力の座にとどめつつ、米国企業に特権的な石油資源へのアクセスを強く迫っている。複数の専門家は、国際規範に全く言及せず力を行使するこうしたやり方が、中国やロシアによる近隣諸国への強圧行動を助長しかねないと警鐘を鳴らす。

上海の復旦大学の国際問題専門家、趙明浩氏は、米国が「中国の脅威」という概念を中南米で誇張してきたと​説明する。

トランプ氏は2期目の就任直後、パナマ運河を取り戻すと語り、戦略的な水路近くにある中国系の運営施設を見直すようパナマ政府に要求した。

ただ趙氏は、トランプ氏が大国による勢力圏分割を支持しているようにも見えると述べ、この考えは中国にとっても魅力的だと多くの人が思っていると付け加えた。

ロシアでは、米国によるベネズエラ攻撃とマドゥロ氏拘束は純粋な力の誇示という認識が一般的だ。

ロシア大統領府元顧問のセルゲイ・マルコフ氏はロイターに「トランプ氏が他国の大統領を『盗み出した』事実は、基本的に国際法など存在せず、あるのは力の法則だけだということを意味している。だがそんなことはロシアがずっと前から知っていた」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国製造業PMI、2月は2カ月連続で50割れ 民間

ワールド

対イラン作戦「計画より早く進展」、米軍司令官が動画

ビジネス

米財務省、銀行の流動性規制を見直しへ FRBと協議

ビジネス

中東情勢を注視、中心的見通し実現すれば政策金利引き
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 5
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中