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マクロスコープ:高市首相が教育・防衛国債に含み、専門家は「金利上昇材料」と警戒

2025年11月05日(水)17時39分

国会で所信表明演説を行う高市首相。10月24日撮影。REUTERS/Kim Kyung-Hoon

Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 5日 ロイター] - 高市早苗首相は5日の衆院代表質問で、教育と防衛政策の強化に充てる「教育国債」「防衛国債」導入の可能性を問われ、「未定だ」と前置きしつつ新たな財源調達のあり方を検討していると述べた。国債発行による財源確保に含みをもたせたもので、具体化すれば政府の財政運営の大きな変更となる。

「国債とするか否かは未定だが、リスクを最小化し未来を創造するための投資にかかる新しい財源調達のあり方については前向きに検討している」。高市氏は国民民主党の玉木雄一郎代表から「教育国債」「防衛国債」発行検討の有無を問われ、こう述べた。

高市氏は先のトランプ米大統領との首脳会談では防衛費増額の方針を表明した。「防衛国債」は安倍晋三元首相が必要性を訴えた経緯もある。新たに連立を組んだ日本維新の会との間では、高校授業料無償化の実施について合意。私立高に通う生徒も対象とし、来年度から所得制限を設けずに授業料が実質的に無償化される見通しだ。

「責任ある積極財政」を唱える中で、高市氏は首相就任前から財政健全化の指標として「債務残高対GDP(国内総生産)比」ではなく「純債務残高対GDP比」を用いる考えを表明するなど独自の方針を示してきた。こうした日本の財政余力に対する考え方や新たな政策実現に向けた財源確保を目的に、「新しい財源調達のあり方」を模索しているとみられる。

財務省関係者は「石破茂前政権の末期にも、プライマリーバランス(PB)の黒字化が実現したら、その分成長戦略に回すべきという議論があった」と明かす。その上で、「教育国債」や「防衛国債」については「デフレ脱却で名目成長率が金利を上回る状態にはなっている。財政が安定しているため新規国債を出せるから出す、という議論はあり得る。高市氏はその方針で進むのかもしれない」と解説する。

ただ、教育関連予算を「教育国債」で賄う方針はこれまでの政権になかったことだ。防衛費については岸田文雄政権で関連予算の一部に建設国債を充てたものの、「防衛国債」となれば財政法の趣旨や国債を防衛費に充てないとする戦後内閣の方針をさらに転換することにつながる可能性がある。

加えて、国債増発が不可避となれば財政規律の緩みへの警戒感から長期金利の上昇などを招きかねない。前出とは別の財務省関係者は「高市氏はPB黒字化という概念すら捨てようとしているのではないか。実行されれば日本の財政政策は大きく変わることになる」と話す。

高市氏の答弁を専門家はどう見ているのか。

SBI証券チーフ債券ストラテジストの道家映二氏は「教育国債という発想は建設国債と同じく資産だから赤字国債の対象外という発想だろう」とみた上で、「国債の増発につながるロジックで、国債売り、金利上昇材料だ」と指摘する。「市場関係者の間では、高市政権は中枢に麻生太郎・自民党副総裁や鈴木俊一幹事長がいることや『小さな政府』を志向する維新と連立していることから財政再建に理解があると誤解している人がいるが、今後徐々に非常に積極的な財政拡大方針が浸透してくる可能性がある」と話した。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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