アングル:米国株、人気は株主還元よりAI技術革新投資の企業
米国株は割高感と人工知能(AI)バブルの進行を巡る議論が活発だ。写真はAIのイメージ画像。2024年2月、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ市で撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
Johann M Cherian
[27日 ロイター] - 米国株は割高感と人工知能(AI)バブルの進行を巡る議論が活発だ。それにもかかわらず投資家の間では、配当や自社株買いなどを通じて伝統的な株主還元を実施する企業よりも、資本をAI技術革新に振り向ける企業の方を好ましいと考える傾向がますます強まっている。
投資家は、短期的な利益よりも長期的な成長を優先させている。背景には、AI投資をおろそかにする企業は、近年で最も大きなテクノロジーの変革になると多くの人々に考えられている動きに適応できなくなりかねないという認識がある。
ゴールドマン・サックスはAIに起因する投資の潮流が2026年にかけて続くと予想し、米国における自社株買いの見通しを従来の12%増から9%増に下方修正した。
ウェルズ・ファーゴのチーフ株式ストラテジスト、オースング・ウォン氏は「現在の市場はAIが主導する強気相場であり、市場は企業のAIを巡る成長見通しに報い続けている。現時点では企業がAIを開発して事業機会を収益に結び付けられるかどうかと比べると、株主還元は軽視されている」と述べた。
S&P総合500種に組み入れられた企業が計画している今年の設備投資は1兆2000億ドルに膨らんでおり、調査会社トライバリエイト・リサーチが統計を開始した1999年以降で最高を記録。そのうち上位9社の設備投資が全体の約30%を占めた。
<株主還元も過去最高>
一方、S&Pグローバルのデータによると、今年6月までの12カ月間の株主還元も1兆6500億ドルとなって過去最高を更新した。このうち配当は6538億6000万ドル、自社株買いは9978億2000万ドルだった。
ただ、高い配当と大規模な自社株買いだけでは、長期の投資家を引き付けられていない。
アップルは今年第2・四半期にS&P総合500種企業の中で株主還元が最大となり、自社株買いと配当はメタ・プラットフォームズの2倍を超えた。
それでもアップルの株価は、しっかりとしたAI技術革新が行われていないとの懸念をから「マグニフィセント7(超大型ハイテク7銘柄)」の中では出遅れている。
半面、アルファベットやメタ、マイクロソフト、オラクルなど大規模なAI投資を進めている企業は今年、株価のリターンが2桁となり、市場全体を上回っている。
アマゾン・ドット・コムとコアウィーブ,を含めたこのグループの今年の設備投資総額は4000億ドルの見込みだ。
セールスフォース、アクセンチュアACN.N>、コグニザントも株主還元を拡大しているが、セールスフォースとアクセンチュアの株価は年初来で23%余り下落、コグニザントは12%値下がりしており、説得力のあるAI展開方針がない場合、株主還元だけでは投資家の心を打つことはできないとの見方が強まっている。
一方、AIを収益に結び付ける動きはもはや、シリコンバレーだけにとどまっていない。銀行やヘルスケア、主要消費財といったセクターの企業も、コストを削減するためテクノロジーに大きく賭けている。
銀行大手JPモルガン・チェースは技術開発に年間で約20億ドルを投資、ゴールドマン・サックスは貸し出しプロセス、規制当局への報告、ベンダー管理にAIを利用している。
同様に防衛大手のノースロップ・グルマンとロッキード・マーチンは自動制御システムと重要なプラットフォームにAIを組み込んでおり、製薬会社のシュレーディンガーとリカージョン・ファーマシューティカルズは医薬品開発の異なるステージでAIを活用している。
小売り大手ウォルマートや飲料大手ペプシ、食品大手モンデリーズは利益率が小幅にとどまるにもかかわらず、サプライチェーン(供給網)の最適化と顧客対応のため生成AIに慎重に投資している。
アナリストは依然、現在のAIブームをバブルと呼ぶのには慎重な姿勢だ。ただ大半のアナリストは、企業が借り入れと複雑な合併・買収(M&A)に向かう中、ある時点でAIブームにほころぶ可能性があると警告する。
モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントのリサ・シャレット最高投資責任者は「当社の最善の推測では、来年下半期までのある時点で、人々は自分の計算機をたたき始めて、『(AIを巡る)全ての有望な要素は完全に相場に織り込まれた』と言うだろう」と語った。





