インタビュー:高市外交、「トランプ氏の要求」と「習氏の次」に備えを=キヤノンIGS 峯村氏

トランプ米大統領の訪日や、中国の習近平国家主席と会談する可能性があるアジア太平洋経済協力会議(APEC)など、就任間もない高市早苗首相(写真)が重要な外交イベントに立て続けに臨む。10月21日、東京で代表撮影(2025年 ロイター/Eugene Hoshiko)
Tamiyuki Kihara
[東京 23日 ロイター] - トランプ米大統領の訪日や、中国の習近平国家主席と会談する可能性があるアジア太平洋経済協力会議(APEC)など、就任間もない高市早苗首相が重要な外交イベントに立て続けに臨む。キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司上席研究員は、トランプ氏が高市氏を「安倍の後継者(サクセサー)だ」と評価していると解説する一方、「防衛費以外の大きな要求」を持ちかけてくるリスクに備えるべきと指摘。対中戦略では「ポスト習近平」へのアプローチが重要だと語る。米中に幅広い人脈を持つ峯村氏に、高市氏の米中外交の注目点を聞いた。
――日本政府内には習氏との会談が本当の「ヤマ場」だと指摘する声がある。
高市政権にとって対中外交が最も重要だという指摘はその通りだ。日米は関税交渉の進展もあり一山越えている状況にあり、今度は経済依存度の高い中国との関係構築を考えなければならない。
安倍晋三政権の2期目の日中関係は良好だった。親中派で知られる二階俊博自民党幹事長らがうまく機能し、「あめとむち」の戦略で関係を安定させたからだ。ところが、菅義偉政権ではコロナ禍もあり関係が停滞した。岸田文雄政権はあまりに米国一辺倒になってしまい、米中戦略のバランスを欠いたことで関係は悪化した。
日中関係は米中関係の従属変数だ。米中が良いと日中が悪化する。その意味で、石破茂政権は当初関係構築に苦労していたものの、米中のバランスを取って比較的関係改善が進んだとみている。米中対立は足下でも続いており、日中関係を回復基調にもっていけるチャンスは続いている。
――高市氏の保守的な主張はどう影響するか。
中国は高市氏を非常に警戒している。国営新華社や環球時報の報道を見ても、「女性初」よりも「右翼」を強調して敵対心をあらわにしており、中国当局の意向を反映したものとみるべきだろう。高市氏にとってスタート地点としてはかなり厳しいと言える。その意味でも、高市氏にとって日中関係がうまく運ぶかが1つの大きなハードルであることは間違いない。
政府の対中戦略でポイントになるのは、中国との「裏のパイプ」、つまり習氏にダイレクトに刺さる人脈をどう構築するかだ。かつての二階氏や同じく元幹事長で親中派の野中広務氏のような存在は政権内には見当たらない。歴史的に中国と良好な関係を築いてきた公明党が連立から抜けたことも痛手だ。石破政権はパイプを探ったが、結局見つからなかったと聞いている。
中国側の状況を勘案することも重要だ。習氏の総書記としての任期満了が2027年に迫っている。専門家の中には4期目に突入すると見る向きもあるが、そんなに甘くない。私は習氏の続投は決して安泰ではないと思っている。
―高市氏が急務とすることは何か。
2つある。1つは台湾有事への備えだ。習氏は福建省で17年間勤務し、自身が最も台湾問題に精通し、解決ができると信じている。レガシーを残そうと、極論を言えば台湾併合を急ぐあまり有事となる可能性も十分あるだろう。高市政権は「有事内閣」になる恐れがあるということだ。この点、航空自衛隊出身の尾上定正氏を首相補佐官に起用したのは、高市氏が有事の可能性を考慮していることを物語っている。
もう1つは、「ポスト習近平」との人脈づくりだ。中国ではここ最近、習氏の周辺や軍との間に不和、異変が起きているとみている。日本政府は直ちに習氏の次を見越したパイプ作りをしなければならない。現状ではほとんどできていないと聞いており、非常に対応が遅いと思っている。
中国は高市政権が長期政権となるのかどうかを注視している。その意味で、高市内閣の支持率が高いことは非常に大きな意味がある。中国も、そして米国も実はその政権が長続きするかどうかしか見ていないと言っても過言ではない。支持率が低ければレームダックだと見られ、ディールをしても実行されるかわからない、となってしまうからだ。岸田政権や石破政権が厳しかったのはその点だ。
―27日にはトランプ氏が来日する。ポイントは何か。
まず個人的な関係が築けるかどうかだ。私が聞いているトランプ側近の話によれば、トランプ氏は高市氏を「安倍の後継者(サクセサー)だ」と周辺に語っている。「日本版メローニ(伊首相)だ」とも高く評価している。つまり、自分と同じ保守政治家であること、国内人気が高いこと、そして強い女性であることだ。また、高市氏が「ジャパン・ファースト」を掲げている点もトランプ氏にとっては自分との共通点として好感を抱いている。
これは私の分析だが、トランプ氏にとって日本の印象は安倍氏のままだ。「シンゾー」との距離感で人をみる傾向はいまも続いている。石破氏がトランプ氏と関係を構築できなかったのは、安倍氏との距離が遠かったからだ。米国はその点をよく見ている。
―懸念点はあるか。
高市氏がトランプ氏からの突然の要求にアドリブで対応できるかどうかだ。トランプ氏は防衛費関連のほかにも大きな要求をしてくる可能性がある。外交経験の少ない高市氏が、それに対してどう柔軟に対応できるかが問われるだろう。
(聞き手・鬼原民幸 編集:久保信博)