ニュース速報
ビジネス

アングル:USスチール買収阻止の動き、日本企業の海外進出に警鐘

2024年09月09日(月)17時30分

 9月6日、日本製鉄によるUSスチール買収を阻止しようとする米政府の動きを受けて、日本企業は今後海外での取引をより注意深く精査することになると専門家は指摘する。写真は日本製鉄のロゴ。都内で4月撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)

Kane Wu Yantoultra Ngui Miho Uranaka

[香港/東京 6日 ロイター] - 日本製鉄によるUSスチール買収を阻止しようとする米政府の動きを受けて、日本企業は今後海外での取引をより注意深く精査することになると専門家は指摘する。

バイデン米政権が国家安全保障上の懸念を理由に日鉄によるUSスチール買収計画を阻止する方針を近く発表すると4日に報じられた。

資産の買い手も売り手も、既に政治動向の分析に時間をかけ、対象が国家介入を引き起こしそうな業界かどうかを精査していると東京のある金融関係者は語る。

日本はここ数年、米規制当局と問題を起こしたことはなく、国内企業は円安と国内経済の低迷を踏まえて海外資産を評価してきた。

しかし、対米外国投資委員会(CFIUS)は日鉄に送った8月31日付の書簡で、日鉄によるUSスチール買収が国内プロジェクトへの鉄鋼供給に影響を及ぼし、国家安全保障上のリスクになるとの考えを示した。

CFIUSは、中国企業が高級ホテルのウォルドーフ・アストリアやIT機器のイングラム・マイクロといった米企業を買収し、米資産を積極的に取得していた約10年前から監視強化に動いている。

複数のアドバイザーは、USスチール買収に共和党と民主党の多くの議員が反対するなど大統領選挙があるため問題が複雑になっているが、11月の選挙後には反対の声は収まる可能性があると指摘する。

ニューヨークを拠点とする投資顧問会社BDAパートナーズの共同設立者兼マネージング・パートナーのユアン・レリー氏は「選挙の勝者がどちらであっても金融市場からはこの案件を受け入れるよう圧力がかかるだろう」と述べた。

とはいえ東京のM&Aをてがける金融関係者によると、日本企業は日鉄の事態を非常に懸念しており、不成立となった場合は違約金が跳ね上がり買い手はより慎重になるとみられている。

米調査会社ディールロジックのデータによると、年初からの日本から米国へのアウトバウンドM&A(合併・買収)は160%増の321億ドルに達し、日本のアウトバウンドM&A総額の71.4%を占めている。この割合は前年は38.7%だった。

法律事務所ウィルソン・ソンシーニのシニアパートナー、Weiheng Chen氏は「CFIUSの決定は、フレンドショアリングの政策的傾向や、CFIUSの審査プロセスにおける重要な同盟国としての日本の地位を変えるものではない」と述べた。

ディールロジックのデータによると、昨年の日本の対外買収の取引額は45%増の658億ドルだった。企業がデフレ状態にある国内経済の影響を和らげるために別の収益源確保に動いたことが背景にある。

過去10年の日本からの米企業買収規模からみて、USスチール買収額(150億ドル)は、2020年のスピードウェイ買収(210億ドル)、14年のビーム買収(160億ドル)に次ぐ3番目の規模になる。

前出のレリー氏は、米国と欧州の資産買収に向けたアジア勢の「高波」が見込まれる中、クロスボーダーM&Aの阻止は経済的にも政策的にも悪いとの見方を示した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ、今月初めの米軍による攻撃で兵士47人死

ワールド

EU、重要インフラでの中国製機器の使用を禁止へ=F

ワールド

イラン抗議デモ、死者3000人超と人権団体 街中は

ワールド

韓国、米のAI半導体関税の影響は限定的 今後の展開
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 8
    イランの大規模デモ弾圧を可能にした中国の監視技術─…
  • 9
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 10
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 6
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 10
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中