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波乱の新春相場、市場は「マネー逆流」を警戒

2016年01月05日(火)16時31分

 1月5日、新年早々の世界同時株安をもたらしたのは、グローバルな投資マネー逆流への警戒感だ。写真はザグレブで2011年1月撮影(2016年 ロイター/Nikola Solic)

[東京 5日 ロイター] - 新年早々の世界同時株安をもたらしたのは、グローバルな投資マネー逆流への警戒感だ。逆流のルートは2つ。原油安と地政学リスクの高まりで、オイルマネーが急激に巻き戻されているとの懸念が浮上。加えて米利上げを発端にした新興国市場からの資金流出に、市場は神経質になっている。株安が続けば政策期待が高まるが、今のところ自律反発の勢いは弱い。

<ダウ、初日は大恐慌以来の下落率>

アジア発のリスクオフは、欧米市場にも広がった。4日の市場で米ダウ<.DJI>は450ドルを超える下落から終値で276ドル安(1.58%)まで戻したが、新年初日の取引としては、1932年(8.1%安)以来の下落率となった。

世界恐慌以来の株安を説明するには、中国の経済指標悪化や中東の地政学リスクの高まりという表向きの理由だけでは難しい。中国の景気減速はネガティブ材料だが、昨年から予想されていたことだ。サウジアラビアとイランの外交関係断絶などが経済に与える影響は、まだ読めない。

市場関係者が不安視し、株式などリスク資産から資金を巻き戻した要因は、グローバルな投資マネー逆流への警戒にある。

中国経済の鈍化は予想されたこととはいえ、景気減速が加速すれば、石油需要はさらに落ち込み、原油価格には一段と下落圧力がかかる。産油国の財政はさらに厳しくなり、世界の金融市場に流れ込んでいたオイルマネーが逆流する可能性が高まる。

そのうえで、中東での地政学リスクが一段と高まれば、「軍事費拡大などにつながり、世界の株式や債券に投資されていたオイルマネーの巻き戻しが加速しかねない」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏)という。

<SWFの資産取り崩し>

政府や政府系機関が運用する投資ファンドである「ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)」。米調査会社のSWFインスティテュートの調べでは、昨年末の資産規模は7兆ドル強(約850兆円)。そのうち石油や天然ガスを資金源とする資産は、約4兆ドル(480兆円)とされている。

資産規模のピークは2015年3月だったが、そこから昨年末までに約1000億ドル(約12兆円)縮小。そのほとんどが石油や天然ガスを資金源とする資産の縮小だ。市場では「原油安で産油国が資産を取り崩している」(外資系証券)との見方が絶えない。

世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアは、原油安を背景に財政悪化が進んでおり、2016年予算は約10.5兆円の財政赤字。昨年は2007年以来となる国債も発行した。さらなる原油安が続けば、中央銀行であるサウジアラビア通貨庁(SAMA)がSWFを通じて資産売却を行う可能性が高まる。

サウジが出資していると言われるのが「サジャップ」や「ジユニパー」といったファンドだ。日本でも「サジャップ」は、ローム<6963.T>の15年3月末の大株主上位10位内に登場(保有比率は1.72%)していたが、同9月末にはランク外に消えている。

2015年の海外投資家による日本の現物株と先物合計の売買は、約3兆円の売り越しとなりそうだ。4年ぶりの売り越しで2012年から始まったアベノミクス相場で海外投資家が年間で売り越しとなるのは初めて。市場では「オイルマネーは日本株買いから売りに回っている」(国内投信)との見方が多い。

<米利上げのインパクト>

市場関係者が警戒するもう一つの「マネー逆流」は、米利上げにともなう新興国市場からの資金流出だ。

昨年12月に決定された米利上げは、米連邦準備理事会(FRB)が長い時間をかけて市場に織り込ませてきたが、それでも「実際に利上げした後の新興国市場の動きには懸念が残る」(シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏)という。

日米欧そろい踏みの量的緩和(QE)によって、ほぼゼロ金利で調達できる資金をバックに、グローバル投資家は新興国市場に投資を続けてきた。国際金融協会(IIF)によると、新興国市場の社債とソブリン債の発行高は昨年12月時点で7920億ドル(約95兆円)に達する。

昨年9月29日にIMF(国際通貨基金)が発表した「国際金融安定性報告書」によると、主要な新興国の企業が抱える借金の総額は、2014年時点で18兆ドル(2150兆円)。この10年間で4.5倍。その多くは海外からの資金とみられている。

米国が昨年12月に利上げに踏み切り、日米欧の「QEクラブ」から脱退。FRBのバランスシート規模は維持され、日欧は量的緩和を続けているものの、基軸通貨国の利上げがマネーの潮流にどう変化をもたらすかはまだ見えない。

ある外資系金融アドバイザー社長は「現在、2%の米10年国債金利が3%に上昇すれば、数値的には1%の上昇のようにみえるが、変化率でみれば1.5倍。資金調達では50%のコストアップとなる」と語る。

5日のアジア市場は、いったん落ち着いたようにみえたが、午後に入り、日経平均<.N225>や上海総合指数<.SSEC>は再びマイナス圏に沈んでいる。予断はまだ許さない。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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