コラム

米イラン緊迫化、海上自衛隊の護衛艦「中東派遣」は正しい選択だ

2020年01月06日(月)17時25分

中東に派遣される海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」 出典:海上自衛隊ホームページ

<護衛艦の派遣は安全保障に関わる問題でより大きな役割を果たしていこうとする安倍政権の一貫した取り組みの一部。イラン革命防衛隊のスレイマニ司令官暗殺の影響と、日本も無縁ではない>

日本は2月初旬から、アラビア海の一部を含む中東海域の公海に自衛隊の護衛艦を派遣すると発表した。武力行使につながる可能性がある独自行動の一環として、日本近海を越えて「海軍」を派遣するのはおそらく戦後初だろう。中東地域の緊張が高まっている事態を受けた決定だが、安倍首相はこのときのために少しずつ準備を進めてきた。

アメリカは1月3日、バグダッド国際空港にドローン攻撃を仕掛け、イラン革命防衛隊のカセム・スレイマニ司令官を殺害した(本誌1月14日号の32ページに関連記事)。この暗殺でアメリカとイランの対立は新たな局面に突入する。

これまではイランの代理勢力がイラクとシリアでアメリカ側の人員を襲い、アメリカが報復するというパターンの繰り返しだったが、スレイマニ暗殺は明確な「開戦事由」であり、イランがアメリカの幅広い権益に対し、「同等の」報復を狙ってくることは確実だろう。

両国の緊張関係は世界経済と石油の供給に暗い影を投げ掛ける。もちろん、日本にとって望ましくない事態だ。

自国の国益に関わる紛争が破滅的な状況に陥る危険性を減らすための取り組みに軍事面で参加するのは、日本にとって責任ある国力の使い方と言える。国際情勢が不安定化している今は特にそうだ。日本は石油の約90%を中東からの輸入に頼っている。

フランスも中東情勢の緊迫化を受け、「欧州」による安全確保の取り組みの一環という名目で艦船を派遣する。アメリカ主導の「有志連合」だけでなく、中国海軍もこの地域で徐々に存在感を増している。インドもインド洋からアラビア海に艦艇を振り向ける意向を示唆している。

【参考記事】軍事力は世界14位、報復を誓うイラン軍の本当の実力

自国の運命は自力で切り開く

護衛艦派遣の決定は、アメリカとイランに対する日本の大きな戦略の一部だ。安倍は緊密な対米関係を維持する一方で、イランとも良好な関係を維持して核開発を制限する国際協定(いわゆる「イラン核合意」)の破棄を思いとどまらせ、中東情勢の悪化を防ごうとしている。

トランプ米大統領はアメリカの安全保障の傘の「代金」として、日本に「支払いの増額」を要求。貿易でのさまざまな譲歩に加え、ペルシャ湾を含む中東海域で監視活動を行う有志連合に参加するよう圧力をかけてきた。安倍が決定した「独自の」艦艇派遣は、このようなトランプの圧力に対する反応という面もある。

だが、日本の行動にはアメリカとの間に一線を画す狙いがあり、対立する米・イラン両国の仲介役を果たそうとする安倍の取り組みに沿ったものだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story