コラム

「無法状態」で混迷の深まる原子力行政

2015年04月16日(木)17時43分

 福井地方裁判所は4月14日、関西電力高浜原発の3・4号機(福井県)について、再稼動を差し止める仮処分決定を出した。高浜については、原子力規制委員会の安全審査によって規制基準を満たしているとの判断が示されたが、福井地裁は「規制基準がゆるやかすぎて合理性を欠く」という異例の判断をしたのだ。

 今回の決定は、昨年12月に仮処分が申請されてから、実質審理なしで一方的に打ち切られ、関西電力は裁判官の忌避を申し立てたが却下された。担当したのは昨年、大飯3・4号機について運転差し止めの判決を出した樋口裁判官で、彼が4月に名古屋家裁に異動する直前に決定を書いたものだ。

 これについて規制委員会の田中委員長は、記者会見で「事実誤認が多い」と反論した。たとえば仮処分決定では「基準地震動を超える地震はあってはならない」と書いているが、基準地震動は耐震設計の基準であり、原子炉はそれよりかなり余裕をもって設計されている。福島第一原発は、基準地震動を大きく超える地震に耐えて運転を停止した。

 そもそも基準地震動が合理的かどうかについて、素人の裁判官がろくに審理もしないで判断できるはずがない。もし基準地震動に疑義があるなら、委員会に異議を申し立てることは可能だが、高浜の700ガルという基準地震動は、過去に起こったことのないきわめて大きな地震動である。福島第一でさえ最大570ガルだった。

 かりに裁判所が新しい規制基準に問題があると判断しても、既存の規制基準に合格した原発の運転を差し止めることはできない。高浜3・4号機が設置許可を受けたのは1985年なので、規制基準が変更されても適法に運転できる、というのが経産省の見解である。今までも、安全審査は通常運転と並行して行なわれてきた。

 ところが規制委員会は、すべての原発を止めるという民主党政権の方針に従って「新しい規制基準に合格するまで運転させない」という方針をとった。これは原子炉等規制法に根拠がないので(定期検査の終わった)高浜は今でも運転できるのだが、委員会が法的根拠なく止めている。これが今回の仮処分のような混乱の原因である。

 また委員会は3月25日、日本原電の敦賀2号機(福井県)について「重要施設の直下に活断層がある」との有識者調査の最終評価書を受理した。この有識者会合なるものは単なるアドバイザーであり、彼らの評価書には法的拘束力がない。活断層についての耐震設計指針は2013年にできたもので、1982年に設置許可を受けた敦賀2号機には遡及適用できない。

 しかし田中委員長はこれを「審査の参考資料にする」とのべたので、このまま委員会が安全審査を先送りすれば、敦賀2号機はあと12年で40年の寿命が来て廃炉になる。これによって唯一の発電所の運転が不可能になる日本原電の経営は、破綻するおそれがある。つまり委員会は法的根拠なく、日本原電に「死刑宣告」を下したのだ。

 日本の原発は、2011年5月に菅元首相が浜岡原発を行政指導で止めたまま、「無法状態」が放置されている。本来は2012年の原子炉等規制法の改正で、新しい規制基準を遡及適用(バックフィット)する手続きも決めるはずだったが、民主党政権が「超法規的措置」を乱発したため、混乱状態になっているのだ。

 法改正から3年たち、今年は見直しの年である。事故の直後は関係者も動転していたのでやむをえないが、もう落ち着いて規制体系を見直すときだろう。たとえば苛酷事故が起こった場合には首相が全原発に「緊急停止命令」を出せるようにするとか、バックフィットの基準は厳格化して通常運転と切り離すなど、内閣が指導力を発揮して原発についてのルールを整備すべきだ。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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